第52回日本理学療法学術大会

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日本理学療法教育学会 » ポスター発表

[P-ED-02] ポスター(教育)P02

2017年5月12日(金) 12:50 〜 13:50 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本理学療法教育学会

[P-ED-02-5] 現状の理学療法教育における身体運動力学に関する教育内容と現場ニーズの乖離

国分 貴徳, 金村 尚彦, 星 文彦 (埼玉県立大学保健医療福祉学部理学療法学科)

キーワード:理学療法教育, 身体運動力学, アンケート調査

【はじめに,目的】

理学療法領域において,重心やモーメントといった身体運動力学に関連する知識の習得は,動作分析を中心とした患者評価の基礎となる知識であり,理学療法教育上必須の要件と考えられる。臨床・教育の分野を問わず,多くの理学療法士はその重要性を認識している一方,現状の理学療法教育においては系統だった身体運動力学の教育内容が整理されているとは言い難く,養成校によりその指導内容は千差万別となっている。今回本学の臨床実習施設の理学療法士を対象に,身体運動力学の講義・実習内容をまとめた講座を受講してもらった後,本学の現状の教育内容と,各理学療法士の出身養成校における学習内容との相違についてアンケート調査を行った。本研究の目的は,理学療法教育における身体運動力学分野の学習内容の現状と,現場のニーズを調査し,系統だった身体運動力学に関する教育内容についての提案を行うことである。

【方法】

対象は,本学の臨床教育実習施設の理学療法士(41名:経験年数1~15年目)とした。対象者に対し,現状の本学学部教育で実施している重心およびモーメントに関する講義・実習の内容をまとめた講座(1回約2時間)を受講して頂いたのち,各理学療法士が養成校時代に受けた類似するテーマの講義・実習の有無,およびその内容,さらには現状に臨床における応用の有無と受講後の印象について無記名式のアンケートを実施した。

【結果】

受講者の出身養成校の種別は4年制大学:25名(国公立:10名,私立:15名),4年制専門学校:7名,3年制専門学校:9名で,21の養成校が含まれていた。このうち重心に関する講義・実習について,講義はあるが実習はなかったという養成校は15校あり,実習があった養成校においても座学から1次元,2次元,3次元での機器による計測実習まですべてを行っていた養成校は1校のみであった。またモーメントに関する内容については,実習まで行っていた養成校は2校のみであり,8つの養成校においては講義もなかったとの回答を得た。また,これまでの臨床において,重心やモーメントの知識を応用できていたかという問いでは,41名中24名が「できていなかった・理解できていなかった」と回答した。



【結論】

今回の調査から,非常に限定的なデータではあるものの,現状の理学療法教育において重心やモーメントといった身体運動力学に関連する内容の講義・実習について,不十分と言わざるを得ない結果が示された。一方で全ての対象者において,臨床で必要な知識であるとの認識は高く,養成校教育との乖離が明らかとなった。現場が求める内容の全てが,養成校において必要な教育内容となるわけではないが,重心やモーメントといった基礎的な身体運動力学に関する内容については,養成校教育における充実が必須となるべきであり,今回の結果は今後の理学療法の基礎教育を検討する上で一助となるデータと考える。