[P-ED-10-3] 身体機能と日常生活動作の改善に関連する理学療法士の社会的要因
Keywords:理学療法士, 社会的要因, リハビリテーションの帰結
【はじめに】
近年,社会神経科学の発展により,人の社会的認知能力などに関する脳メカニズムが次第に明らかにされている(Dunbar,2009)。この様な背景からリハビリテーション(以下リハ)分野においても,セラピストと患者の関係性は患者の痛みや日常生活動作(以下ADL)に影響を及ぼすといった社会的側面に注目した報告が散見される(Hall,2010)。また,患者との関係性に影響を及ぼすセラピストの社会的側面として,共感性や親しみなどの要因が報告されている(Kidd,2011)。しかし,本邦においてセラピストの社会的要因とリハの帰結に関する臨床研究はない。よって,本研究の目的は身体機能とADLの改善に関連する理学療法士(以下PT)の社会的要因を調査することである。
【方法】
対象は,当院に2016年1月から2016年10月までの間に新規入院した回復期リハ病棟の整形疾患患者と担当PTとし,対象患者の身体機能とADL能力を後ろ向きに調査した。全ての対象患者はパフォーマンスの評価が実施できる者とし,除外基準は重度の認知機能の低下などにより評価実施が困難,在院日数が1ヶ月以内,入院期間中に状態が悪化したものとした。対象患者の調査項目は10m歩行速度(10MWT),Timed up and Go test(TUG),FIM運動項目合計点(運動FIM)とし,対象PTの社会的要因に関する評価は経験年数,共感性を多次元共感性尺度(情動的共感,認知的共感),性格をBig Five尺度(情緒不安定性など5項目),精神状態と行動をASEBAの日本語版成人用行動チェックリスト(身体愁訴,攻撃性,侵入性など8項目)とした。統計解析は,対象患者の各調査項目の入院時と退院時の変化量と対象PTの各評価項目の関係性についてSpearmanの順位相関係数を算出し,対象患者の各調査項目の変化量を目的変数,各調査項目の変化量と相関のある対象PTの社会的因子を説明変数とした重回帰分析を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
対象患者(平均年齢79.4±9.3歳)とPT(平均年齢23.8±2.6歳)は各19名。相関分析の結果,10MWTの変化量に対して経験年数(ρ=.59,p<.01)に正の相関,情動的共感(ρ=-.51,p<.05)に負の相関を認めた。TUGの変化量に対しては,情動的共感(ρ=-.57,p<.05),攻撃性(ρ=-.54,p<.05),侵入性(ρ=-.47,p<.05)に負の相関を認めた。運動FIMの変化量に対しては,身体愁訴(ρ=-.55,p<.05),攻撃性(ρ=-.47,p<.05),情緒不安定性(ρ=-.61,p<.01)に負の相関を認めた。また,重回帰分析の結果,10MWTの変化量に対して情動的共感(p<.05,R2=.56),TUGの変化量に対して情動的共感と攻撃性(p<.01,R2=.71),運動FIMの変化量に対して情緒不安定性(p<.05,R2=.32)が選択された。
【結論】
本研究の結果から,理学療法士の社会的要因は身体機能とADLの改善に関連する可能性が示唆された。今後はリハ分野においても社会的要因を含んだ研究データを蓄積し,リハ教育を再考していく必要がある。
近年,社会神経科学の発展により,人の社会的認知能力などに関する脳メカニズムが次第に明らかにされている(Dunbar,2009)。この様な背景からリハビリテーション(以下リハ)分野においても,セラピストと患者の関係性は患者の痛みや日常生活動作(以下ADL)に影響を及ぼすといった社会的側面に注目した報告が散見される(Hall,2010)。また,患者との関係性に影響を及ぼすセラピストの社会的側面として,共感性や親しみなどの要因が報告されている(Kidd,2011)。しかし,本邦においてセラピストの社会的要因とリハの帰結に関する臨床研究はない。よって,本研究の目的は身体機能とADLの改善に関連する理学療法士(以下PT)の社会的要因を調査することである。
【方法】
対象は,当院に2016年1月から2016年10月までの間に新規入院した回復期リハ病棟の整形疾患患者と担当PTとし,対象患者の身体機能とADL能力を後ろ向きに調査した。全ての対象患者はパフォーマンスの評価が実施できる者とし,除外基準は重度の認知機能の低下などにより評価実施が困難,在院日数が1ヶ月以内,入院期間中に状態が悪化したものとした。対象患者の調査項目は10m歩行速度(10MWT),Timed up and Go test(TUG),FIM運動項目合計点(運動FIM)とし,対象PTの社会的要因に関する評価は経験年数,共感性を多次元共感性尺度(情動的共感,認知的共感),性格をBig Five尺度(情緒不安定性など5項目),精神状態と行動をASEBAの日本語版成人用行動チェックリスト(身体愁訴,攻撃性,侵入性など8項目)とした。統計解析は,対象患者の各調査項目の入院時と退院時の変化量と対象PTの各評価項目の関係性についてSpearmanの順位相関係数を算出し,対象患者の各調査項目の変化量を目的変数,各調査項目の変化量と相関のある対象PTの社会的因子を説明変数とした重回帰分析を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
対象患者(平均年齢79.4±9.3歳)とPT(平均年齢23.8±2.6歳)は各19名。相関分析の結果,10MWTの変化量に対して経験年数(ρ=.59,p<.01)に正の相関,情動的共感(ρ=-.51,p<.05)に負の相関を認めた。TUGの変化量に対しては,情動的共感(ρ=-.57,p<.05),攻撃性(ρ=-.54,p<.05),侵入性(ρ=-.47,p<.05)に負の相関を認めた。運動FIMの変化量に対しては,身体愁訴(ρ=-.55,p<.05),攻撃性(ρ=-.47,p<.05),情緒不安定性(ρ=-.61,p<.01)に負の相関を認めた。また,重回帰分析の結果,10MWTの変化量に対して情動的共感(p<.05,R2=.56),TUGの変化量に対して情動的共感と攻撃性(p<.01,R2=.71),運動FIMの変化量に対して情緒不安定性(p<.05,R2=.32)が選択された。
【結論】
本研究の結果から,理学療法士の社会的要因は身体機能とADLの改善に関連する可能性が示唆された。今後はリハ分野においても社会的要因を含んだ研究データを蓄積し,リハ教育を再考していく必要がある。