[P-ED-13-3] 理学療法士の賃金に関する労働経済学的な問題点の分析
Keywords:賃金, 人的資本, 理学療法士
【はじめに,目的】
理学療法士(PT)を含む医療職や介護職は,少子高齢社会で活躍することが期待されるが,PTの賃金プロファイルの傾きは,10年前と比較すると緩やかになっている。これまで,PTの賃金に関する報告は少なく,若年層が多いために低賃金であるとされているが,30代以降で他の医療職との賃金格差が拡大しており,資格取得後に人材の質が向上していない可能性があると考えた。
そのため,労働経済学の視点からPTの賃金を規定する要因を推定し,今後の課題について提言する。
【方法】
労働経済学には,知識や技能といった人的資本を,教育やトレーニングといった人的資本投資により向上させることで労働生産性を向上させ,それにより賃金が上昇すると考える人的資本論がある。労働者の属性が賃金に与える影響の強さを推定する方法にミンサー型賃金関数があり,被説明変数を賃金の対数値とし,各属性を説明変数とした重回帰分析を行う。説明変数が1単位増加することで,賃金が係数×100[%]上昇すると解釈され,大学教育などの人的資本投資の増加により労働生産性が向上すれば,賃金も上昇するといえる。
使用したデータは,賃金構造基本統計調査の職種別2表と第3表で,対象職種はPTと薬剤師,看護師,福祉施設職員とした。対象年は最新の平成27年と,PTのみ比較対照として平成22年と平成17年も用いた。説明変数は年齢,性別,勤続年数,経験年数,所定内実労働時間数,超過実労働時間数として労働者数による重み付け最小二乗法を行った。
【結果】
PTでは,年齢および勤続年数,経験年数の係数が,平成17年より平成22年と平成27年で低値であった。
平成27年の他職種との比較では,PTの係数が年齢は0.006,勤続年数は0.041と相対的に大きい値であった。PTの経験年数の係数は,経験1~4年が0.220,経験5~9年は0.293と看護師および施設職員より小さく,経験10~14年では0.380と他職種より小さかった。
【結論】
PTの賃金に与える影響は,勤続年数は他職種より強く,企業特殊技能が評価されているが,年齢とともに年々弱くなっている。また,経験年数は特に経験10~14年で他職種および過去より賃金に与える影響が低下し,一般技能が評価されていない状況にあった。
PTの賃金が低下傾向にあるのは,有資格者数の増加により供給過剰となっている可能性が考えられるため,計画的な養成が必要である。加えて,高学歴者が必ずしも臨床家として高技能であるとは限らないため,管理者が今まで以上に,臨床PTの技能の評価をしていく意識づけも必要である。
職業の価値は賃金の高低によってのみ決定されるものではないが,賃金は職業選択や離職の重要な一要因となりうる。PTという職業が将来にわたり必要とするならば,人材の質の低下と低賃金という悪循環による職業の衰退を避けるために,現職者の研鑽と質の高い臨床家を育成する方法を検討する必要がある。
理学療法士(PT)を含む医療職や介護職は,少子高齢社会で活躍することが期待されるが,PTの賃金プロファイルの傾きは,10年前と比較すると緩やかになっている。これまで,PTの賃金に関する報告は少なく,若年層が多いために低賃金であるとされているが,30代以降で他の医療職との賃金格差が拡大しており,資格取得後に人材の質が向上していない可能性があると考えた。
そのため,労働経済学の視点からPTの賃金を規定する要因を推定し,今後の課題について提言する。
【方法】
労働経済学には,知識や技能といった人的資本を,教育やトレーニングといった人的資本投資により向上させることで労働生産性を向上させ,それにより賃金が上昇すると考える人的資本論がある。労働者の属性が賃金に与える影響の強さを推定する方法にミンサー型賃金関数があり,被説明変数を賃金の対数値とし,各属性を説明変数とした重回帰分析を行う。説明変数が1単位増加することで,賃金が係数×100[%]上昇すると解釈され,大学教育などの人的資本投資の増加により労働生産性が向上すれば,賃金も上昇するといえる。
使用したデータは,賃金構造基本統計調査の職種別2表と第3表で,対象職種はPTと薬剤師,看護師,福祉施設職員とした。対象年は最新の平成27年と,PTのみ比較対照として平成22年と平成17年も用いた。説明変数は年齢,性別,勤続年数,経験年数,所定内実労働時間数,超過実労働時間数として労働者数による重み付け最小二乗法を行った。
【結果】
PTでは,年齢および勤続年数,経験年数の係数が,平成17年より平成22年と平成27年で低値であった。
平成27年の他職種との比較では,PTの係数が年齢は0.006,勤続年数は0.041と相対的に大きい値であった。PTの経験年数の係数は,経験1~4年が0.220,経験5~9年は0.293と看護師および施設職員より小さく,経験10~14年では0.380と他職種より小さかった。
【結論】
PTの賃金に与える影響は,勤続年数は他職種より強く,企業特殊技能が評価されているが,年齢とともに年々弱くなっている。また,経験年数は特に経験10~14年で他職種および過去より賃金に与える影響が低下し,一般技能が評価されていない状況にあった。
PTの賃金が低下傾向にあるのは,有資格者数の増加により供給過剰となっている可能性が考えられるため,計画的な養成が必要である。加えて,高学歴者が必ずしも臨床家として高技能であるとは限らないため,管理者が今まで以上に,臨床PTの技能の評価をしていく意識づけも必要である。
職業の価値は賃金の高低によってのみ決定されるものではないが,賃金は職業選択や離職の重要な一要因となりうる。PTという職業が将来にわたり必要とするならば,人材の質の低下と低賃金という悪循環による職業の衰退を避けるために,現職者の研鑽と質の高い臨床家を育成する方法を検討する必要がある。