[P-HT-04-5] 弓部大動脈瘤患者における起立負荷に伴う心拍・血圧応答
弓部人工血管置換術術前患者と健常高齢者での比較検討
Keywords:弓部大動脈瘤, 起立負荷, 心拍血圧応答
【はじめに,目的】
血圧調節における大動脈圧受容器の貢献度は頸動脈圧受容器と比較しても決して小さくない。弓部大動脈瘤患者は大動脈圧受容器が正常に機能しないため,血圧応答が劣化している可能性がある。ところが,こうした患者において起立負荷が血圧応答に与える影響についてこれまで報告がなかった。そこで我々は,弓部大動脈瘤患者において起立負荷に対する心拍・血圧調節応答を検討した。
【方法】
被験者は2007~2010年に和歌山県立医科大学附属病院に入院した弓部大動脈瘤患者13名(平均年齢72±5歳,体重65.3±10.8kg[平均値±標準偏差])と年齢と体格が一致する健常高齢者13名であった。弓部大動脈瘤患者13名の詳細については,当院心臓血管外科で弓部人工血管置換術施行のためリハ科紹介者50名(男性37名,女性13名)中,術前測定可能であった男性18名のうち13名となった。また,除外対象者5名で,重度不整脈2名,CVA既往者2名,若年者1名であった。測定は27℃の部屋において起立台上で仰臥位を取り,両膝と骨盤を圧迫しない程度に固定した。十分安静を取った後,1分毎に4回測定(4回の平均値を安静時の値として使用)を行った。その後,速やか(約40秒)に60度のヘッドアップティルト(以下HUT)を行い,1分毎に5分間測定,また起立時に足底は起立台に完全接地していた。速やか(約30秒)に0度の仰臥位に戻し,回復期として1分毎に3回測定した。この間,血圧は手動血圧計TERUMOエレマーノを用い,測定側の上肢肘関節伸展位でマンシェット帯は心臓の位置に基準をとり測定を実施した。心拍数の測定にはメディセンス社MCO101を使用した。解析はTwo-way ANOVAを行い,Post-hocはTukey-Kramerを使用した。
【結果】
安静臥位において,健常者では心拍数は67±2拍/分(平均値±標準誤差),収縮・拡張期血圧,脈圧はそれぞれ124±4,73±2,51±4mmHgであり,患者との間に有意差を認めなかった。HUTにより両群共に心拍数は約10拍/分上昇しHUT終了まで維持された。健常者では収縮・拡張期血圧はHUT時にも維持されたが,患者では収縮期血圧が約20mmHg有意に低下し,5分間のHUTの間回復せず,拡張期血圧もHUTにより約9mmHg低下した。しかし,起立負荷時に血圧低下による失神症状は認めなかった。
【結論】
患者における臥位安静時の血圧低値,起立負荷に対する血圧低下は,血圧変化に対する心拍数の変化の感受性が低下し,血圧調節におけるオペレーション・ポイントが低血圧側へシフトしているためであると考えられる。このシフトには,本来,大動脈弓に存在する圧受容器自体の圧変化に対する求心性神経活動上昇の感度の低下,さらに交感神経活動上昇に対する血圧応答の劣化が関与すると考えられ,今後の検討課題である。弓部大動脈瘤患者では安静臥位の血圧は健常者と比べて差がないが,姿勢変換時の血圧調節が劣化していることが示唆された。
血圧調節における大動脈圧受容器の貢献度は頸動脈圧受容器と比較しても決して小さくない。弓部大動脈瘤患者は大動脈圧受容器が正常に機能しないため,血圧応答が劣化している可能性がある。ところが,こうした患者において起立負荷が血圧応答に与える影響についてこれまで報告がなかった。そこで我々は,弓部大動脈瘤患者において起立負荷に対する心拍・血圧調節応答を検討した。
【方法】
被験者は2007~2010年に和歌山県立医科大学附属病院に入院した弓部大動脈瘤患者13名(平均年齢72±5歳,体重65.3±10.8kg[平均値±標準偏差])と年齢と体格が一致する健常高齢者13名であった。弓部大動脈瘤患者13名の詳細については,当院心臓血管外科で弓部人工血管置換術施行のためリハ科紹介者50名(男性37名,女性13名)中,術前測定可能であった男性18名のうち13名となった。また,除外対象者5名で,重度不整脈2名,CVA既往者2名,若年者1名であった。測定は27℃の部屋において起立台上で仰臥位を取り,両膝と骨盤を圧迫しない程度に固定した。十分安静を取った後,1分毎に4回測定(4回の平均値を安静時の値として使用)を行った。その後,速やか(約40秒)に60度のヘッドアップティルト(以下HUT)を行い,1分毎に5分間測定,また起立時に足底は起立台に完全接地していた。速やか(約30秒)に0度の仰臥位に戻し,回復期として1分毎に3回測定した。この間,血圧は手動血圧計TERUMOエレマーノを用い,測定側の上肢肘関節伸展位でマンシェット帯は心臓の位置に基準をとり測定を実施した。心拍数の測定にはメディセンス社MCO101を使用した。解析はTwo-way ANOVAを行い,Post-hocはTukey-Kramerを使用した。
【結果】
安静臥位において,健常者では心拍数は67±2拍/分(平均値±標準誤差),収縮・拡張期血圧,脈圧はそれぞれ124±4,73±2,51±4mmHgであり,患者との間に有意差を認めなかった。HUTにより両群共に心拍数は約10拍/分上昇しHUT終了まで維持された。健常者では収縮・拡張期血圧はHUT時にも維持されたが,患者では収縮期血圧が約20mmHg有意に低下し,5分間のHUTの間回復せず,拡張期血圧もHUTにより約9mmHg低下した。しかし,起立負荷時に血圧低下による失神症状は認めなかった。
【結論】
患者における臥位安静時の血圧低値,起立負荷に対する血圧低下は,血圧変化に対する心拍数の変化の感受性が低下し,血圧調節におけるオペレーション・ポイントが低血圧側へシフトしているためであると考えられる。このシフトには,本来,大動脈弓に存在する圧受容器自体の圧変化に対する求心性神経活動上昇の感度の低下,さらに交感神経活動上昇に対する血圧応答の劣化が関与すると考えられ,今後の検討課題である。弓部大動脈瘤患者では安静臥位の血圧は健常者と比べて差がないが,姿勢変換時の血圧調節が劣化していることが示唆された。