[P-KS-05-1] 初期視覚認知における左右大脳半球機能差の検証
高密度脳波計を用いた事象関連電位研究
Keywords:視覚, 事象関連電位, 神経回路
【はじめに,目的】
左半球損傷では失語症,右半球損傷では左半側空間無視といった代表的な高次脳機能障害が表すように,リハビリテーション医療において左右大脳半球の機能的非対称性に遭遇する機会は多い。しかしながら,障害部位や個人差などにより多岐にわたる病態が報告されており,その詳細な神経基盤の解明には至っていない。そこで本研究では,初期視覚認知における半球間機能差を半視野顔・文字刺激を用いて,時系列的,空間的に事象関連電位(event-related potential,ERP)を用いて検証することを目的とする。
【方法】
対象は20歳以上の右利きで健常な男女18名である。刺激画像はヒトの顔もしくは物体の写真,あるいは小学1~2年生で習得する漢字2字熟語もしくは既存の漢字を4分割しランダムに組み合わせたスクランブル文字を左右半視野に提示した。各刺激300-msをモニター上に提示した際のERPを,高密度脳波計(128-ch EEG)で記録した。解析対象は左右後頭部のP100,および左右側頭後頭部のN170とした。
【結果】
P100においては,顔・文字といった刺激種類にかかわらず,刺激提示反対側で振幅が増大した(p<0.01)。N170について,顔刺激については左右半球にかかわらず,物体より顔に対して有意に振幅が増大した(p<0.01)。一方文字刺激については,刺激種類に対する主効果は認められず,左半球で右視野提示時に振幅が増大した(p<0.05)。右半球では刺激種類,刺激視野に対する主効果,交互作用ともに認められなかった。また,右視野刺激時の顔と漢字に対する左N170振幅において高い相関が認められた(r=0.7287,p<0.01)。
【結論】
P100成分は一次視覚野(V1)の脳活動を反映すると考えられている。結果より,刺激種類にかかわらず,左右半視野に提示した刺激を視覚路に準じて対側半球に情報伝達していることが確認された。一方,N170成分は紡錘状回顔領域(fusiform face area,FFA)および語形認知領域(visual word form area,VWFA)近傍後側頭溝に由来すると考えられている。顔N170は左右FFAに関わらず反応性が高く,特に右半球で機能的優位性が認められた。しかし,漢字N170に対応するVWFAの反応は半球間機能差を認めなかった。すなわち,一般的に顔認知は右FFA,言語認知は左VWFAに特化するとされるが,半視野漢字刺激では機能的左右差が認められなかった。日常的な文字認知は中心視野で行っていることを背景として,文字認知における視覚路を越えた機能的左右差は全視野刺激でのみ生じると推察された。また,左半球で認められた顔N170と漢字N170の高い相関は,初期視覚認知過程における顔・漢字両刺激反応性を表した神経学的機序であることが示唆された。
左半球損傷では失語症,右半球損傷では左半側空間無視といった代表的な高次脳機能障害が表すように,リハビリテーション医療において左右大脳半球の機能的非対称性に遭遇する機会は多い。しかしながら,障害部位や個人差などにより多岐にわたる病態が報告されており,その詳細な神経基盤の解明には至っていない。そこで本研究では,初期視覚認知における半球間機能差を半視野顔・文字刺激を用いて,時系列的,空間的に事象関連電位(event-related potential,ERP)を用いて検証することを目的とする。
【方法】
対象は20歳以上の右利きで健常な男女18名である。刺激画像はヒトの顔もしくは物体の写真,あるいは小学1~2年生で習得する漢字2字熟語もしくは既存の漢字を4分割しランダムに組み合わせたスクランブル文字を左右半視野に提示した。各刺激300-msをモニター上に提示した際のERPを,高密度脳波計(128-ch EEG)で記録した。解析対象は左右後頭部のP100,および左右側頭後頭部のN170とした。
【結果】
P100においては,顔・文字といった刺激種類にかかわらず,刺激提示反対側で振幅が増大した(p<0.01)。N170について,顔刺激については左右半球にかかわらず,物体より顔に対して有意に振幅が増大した(p<0.01)。一方文字刺激については,刺激種類に対する主効果は認められず,左半球で右視野提示時に振幅が増大した(p<0.05)。右半球では刺激種類,刺激視野に対する主効果,交互作用ともに認められなかった。また,右視野刺激時の顔と漢字に対する左N170振幅において高い相関が認められた(r=0.7287,p<0.01)。
【結論】
P100成分は一次視覚野(V1)の脳活動を反映すると考えられている。結果より,刺激種類にかかわらず,左右半視野に提示した刺激を視覚路に準じて対側半球に情報伝達していることが確認された。一方,N170成分は紡錘状回顔領域(fusiform face area,FFA)および語形認知領域(visual word form area,VWFA)近傍後側頭溝に由来すると考えられている。顔N170は左右FFAに関わらず反応性が高く,特に右半球で機能的優位性が認められた。しかし,漢字N170に対応するVWFAの反応は半球間機能差を認めなかった。すなわち,一般的に顔認知は右FFA,言語認知は左VWFAに特化するとされるが,半視野漢字刺激では機能的左右差が認められなかった。日常的な文字認知は中心視野で行っていることを背景として,文字認知における視覚路を越えた機能的左右差は全視野刺激でのみ生じると推察された。また,左半球で認められた顔N170と漢字N170の高い相関は,初期視覚認知過程における顔・漢字両刺激反応性を表した神経学的機序であることが示唆された。