第52回日本理学療法学術大会

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日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » ポスター発表

[P-KS-05] ポスター(基礎)P05

2017年5月12日(金) 12:50 〜 13:50 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[P-KS-05-3] 運動-感覚の時間的不一致が操作運動制御に与える影響と身体の参照効果の検証
映像遅延システムとfNIRSを用いた検討

東谷 光展1, 西 勇樹2, 信迫 悟志2,3, 大住 倫弘3, 座間 拓郎4, 嶋田 総太郎4, 森岡 周1,2,3 (1.畿央大学健康科学部理学療法学科, 2.畿央大学大学院健康科学研究科神経リハビリテーション学研究室, 3.畿央大学ニューロリハビリテーション研究センター, 4.明治大学理工学部認知脳科学研究室)

キーワード:参照, 運動制御, 脳卒中片麻痺

【はじめに,目的】運動と感覚の時間的不一致は,異常感覚や身体所有感の損失に繋がる。しかし,時間的不一致による操作運動制御への影響は明確ではない。一方,脳卒中片麻痺肢に対して非麻痺肢を参照して使用することで運動機能が向上することが示されている(Yu, 2016)。本研究では,運動と感覚の時間的不一致が一側上肢の操作運動制御に及ぼす影響について,そして他側上肢の参照が操作運動制御に与える効果と,その脳活動について調査した。

【方法】対象は右利き健常大学生20名。我々の先行研究に基づき映像遅延システム(Shimada, 2010)を用い,運動と感覚の時間的不一致を作成した。被験者の操作運動をビデオカメラで撮影し,その映像を映像遅延装置(朋栄YEMエレテックス)経由で,被験者の実手と空間的不一致が生じない形で液晶モニターに投影した。被験者はこの設定下で映像遅延なし・参照なしでのリアルタイム条件(条件1),映像の300msec遅延下での参照あり条件(条件2)と参照なし条件(条件3)の3条件でペグボード課題(右手使用)を実施した。参照ありでは左手をペグボード上に置かせ,参照なしでは左手を被験者の腰背部に位置させた。課題は3条件とも30秒間で多くのペグを挿入することとし,3条件を1セット,ランダムに計3セット実施した。時間内のペグ挿入本数を成績とした。各条件における主観的難易度を7段階リッカート尺度で記録した。各条件時の脳活動はfNIRS(FOIRE3000,島津製作所)を用いて計測した。計測部位は国際10-20法をもと頭頂葉とし,縦3×横9の合計42chを用いた。関心領域を正中頭頂部と左・右頭頂葉とし,Oxy-Hb濃度長変化から効果量(Effect Size:ES)を算出した。解析は成績と主観的難易度及びESの条件間比較(Friedman検定,Wilcoxon signed-rank test)を行うと共に,それらの相関分析をSPSS Statistics 24(IBM)を用い実施した(有意水準5%)。

【結果】条件1と比べ条件3の成績に有意な減少を認め(p=0.000),条件3に比べ条件2の成績で有意な増加を認めた(p=0.001)。条件1に対し条件3で主観的難易度の有意な増加を認めた(p=0.010)。条件3に対し条件2で左頭頂葉のESに有意な増加を認めた(p=0.010)。成績と左頭頂葉のESとの間に有意な相関を認めた(r=0.323,p=0.011)。

【結論】本研究により,運動と感覚の時間的不一致は操作運動の成績を低下させるが,身体の参照効果により成績が向上することが示された。そして,この身体の参照効果は頭頂葉によって担われていることが示唆された。本結果は,患肢の運動学習課題を行う際,健肢を参照として用いることの重要性を示唆する基礎的知見となると考える。