[P-KS-06-2] トレッドミル歩行中の陽極経頭蓋直流電気刺激の適用が歩行時下肢筋活動と皮質脊髄路興奮性に与える影響
Keywords:経頭蓋直流電気刺激, 歩行, 表面筋電図
【はじめに,目的】
経頭蓋直流電気刺激(tDCS)は,非侵襲的に脳活動を修飾することで,技能向上や学習促進ができるため,リハビリテーションへの応用が期待されている(Kang, et al., 2016)。しかし,理学療法の治療対象である歩行へのtDCSの効果は十分に検討されていない。そこで本研究では,健常者における歩行中のtDCS適用が,歩行時下肢筋活動および皮質脊髄路興奮性に与える影響を検討した。
【方法】
対象は,神経系疾患や下肢運動器疾患の既往がない健常成人15名(女性7名,平均年齢±標準偏差:27±3歳)とした。研究デザインは,double-masked,sham-controlled,cross-over designとした。tDCSの刺激電極は,陽極(anode)を左側一次運動野(下肢領域)の直上,陰極を対側前額部に貼付した。刺激強度1 mAとし,トレッドミル歩行中に10分間刺激した。偽刺激条件(sham tDCS)では,最初の30秒間のみ刺激した。トレッドミル歩行は,快適速度で10分間実施した。課題は,anodal tDCS+歩行およびsham tDCS+歩行の2条件を,1週間以上の間隔をあけて実施した。評価は,歩行時下肢筋活動と皮質脊髄路興奮性とし,課題前,課題終了直後,課題終了後20分の時点で実施した。下肢筋活動の評価は,快適速度でのトレッドミル歩行中に,右の前脛骨筋(TA)とヒラメ筋(SOL)から表面筋電図を記録した。筋電図は,全波整流後に30歩行周期分を加算平均し,立脚相と遊脚相に分けてRoot Mean Square(RMS)値を算出した。RMS値は,各相における最大値で除し筋活動の代表値とした。皮質脊髄路興奮性の評価は,経頭蓋磁気刺激法を用いて左一次運動野を刺激し,右のTAとSOLから運動誘発電位(MEP)を記録した。刺激強度は,TAの運動時閾値の140%とした。運動時閾値は,20%最大背屈運動時に100μV以上のMEPが10回中5回誘発される刺激強度とした。各評価時点で15発のMEPを記録し,最大振幅値を求め,平均値を算出した。統計解析は,二要因反復測定分散分析(要因:課題条件,時間)と多重比較検定(Bonferroni法)を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
分散分析の結果,立脚期のTA筋活動と遊脚期のSOL筋活動において,時間に有意な主効果,TAのMEPにおいて有意な交互作用を認めた(すべてp<0.05)。多重比較検定の結果,立脚期のTA筋活動は,両条件ともに課題前と比較し,課題終了直後で有意に減少した(それぞれp<0.05)。TAのMEPは,anodal条件において,課題前と比較し,課題終了直後で有意に増大した(p<0.05)。
【結論】
歩行中のanodal tDCSにより,TAの皮質脊髄路の興奮性が増大する一方で,TAの筋活動には課題間での差を認めず,両者の活動に乖離を認めた。歩行中のanodal tDCSによる皮質脊髄路興奮性の増大は,歩行時筋活動に影響を与えないことが示唆された。今後,tDCSが歩行に与える効果とそのメカニズムを,疾患例で検討する予定である。
経頭蓋直流電気刺激(tDCS)は,非侵襲的に脳活動を修飾することで,技能向上や学習促進ができるため,リハビリテーションへの応用が期待されている(Kang, et al., 2016)。しかし,理学療法の治療対象である歩行へのtDCSの効果は十分に検討されていない。そこで本研究では,健常者における歩行中のtDCS適用が,歩行時下肢筋活動および皮質脊髄路興奮性に与える影響を検討した。
【方法】
対象は,神経系疾患や下肢運動器疾患の既往がない健常成人15名(女性7名,平均年齢±標準偏差:27±3歳)とした。研究デザインは,double-masked,sham-controlled,cross-over designとした。tDCSの刺激電極は,陽極(anode)を左側一次運動野(下肢領域)の直上,陰極を対側前額部に貼付した。刺激強度1 mAとし,トレッドミル歩行中に10分間刺激した。偽刺激条件(sham tDCS)では,最初の30秒間のみ刺激した。トレッドミル歩行は,快適速度で10分間実施した。課題は,anodal tDCS+歩行およびsham tDCS+歩行の2条件を,1週間以上の間隔をあけて実施した。評価は,歩行時下肢筋活動と皮質脊髄路興奮性とし,課題前,課題終了直後,課題終了後20分の時点で実施した。下肢筋活動の評価は,快適速度でのトレッドミル歩行中に,右の前脛骨筋(TA)とヒラメ筋(SOL)から表面筋電図を記録した。筋電図は,全波整流後に30歩行周期分を加算平均し,立脚相と遊脚相に分けてRoot Mean Square(RMS)値を算出した。RMS値は,各相における最大値で除し筋活動の代表値とした。皮質脊髄路興奮性の評価は,経頭蓋磁気刺激法を用いて左一次運動野を刺激し,右のTAとSOLから運動誘発電位(MEP)を記録した。刺激強度は,TAの運動時閾値の140%とした。運動時閾値は,20%最大背屈運動時に100μV以上のMEPが10回中5回誘発される刺激強度とした。各評価時点で15発のMEPを記録し,最大振幅値を求め,平均値を算出した。統計解析は,二要因反復測定分散分析(要因:課題条件,時間)と多重比較検定(Bonferroni法)を用いた。有意水準は5%とした。
【結果】
分散分析の結果,立脚期のTA筋活動と遊脚期のSOL筋活動において,時間に有意な主効果,TAのMEPにおいて有意な交互作用を認めた(すべてp<0.05)。多重比較検定の結果,立脚期のTA筋活動は,両条件ともに課題前と比較し,課題終了直後で有意に減少した(それぞれp<0.05)。TAのMEPは,anodal条件において,課題前と比較し,課題終了直後で有意に増大した(p<0.05)。
【結論】
歩行中のanodal tDCSにより,TAの皮質脊髄路の興奮性が増大する一方で,TAの筋活動には課題間での差を認めず,両者の活動に乖離を認めた。歩行中のanodal tDCSによる皮質脊髄路興奮性の増大は,歩行時筋活動に影響を与えないことが示唆された。今後,tDCSが歩行に与える効果とそのメカニズムを,疾患例で検討する予定である。