[P-KS-06-5] 視覚誘導性自己運動錯覚を誘導するための視覚刺激による生理学的効果は反復トレーニングで増強されるか?
経頭蓋磁気刺激による皮質脊髄路興奮性に関する研究
Keywords:視覚誘導性自己運動錯覚, 運動誘発電位, 経頭蓋磁気刺激
【はじめに,目的】
我々は,視覚誘導性自己運動錯覚(kinesthetic illusion induced by visual stimulation:KiNvis)を脳卒中片麻痺患者の治療に応用するための臨床試験を始め,製品開発が進んでいる。現在は,麻痺した四肢遠位端を人工的に生成した身体像の運動に置き換えることで実現する。これにロボティックデバイスや神経筋電気刺激装置を統合したシステムとするには,ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いた方法が有効である。しかしHMDを用いるとKiNvisが誘導されにくく,治療として有効である脳活動を誘導することが困難であると予測される。そこで上記問題を解決するため,HMDを用いたKiNvisを一定期間付与するトレーニング効果を多角的に調べる研究を遂行している。本研究は,KiNvisトレーニングの反復が視覚刺激を付与している最中の皮質脊髄路(CoST)興奮性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健康な成人男女21名とした。介入として,KiNvisを反復するトレーニングを実施した。その前後に経頭蓋磁気刺激(TMS)によるCoST興奮性検査,および標的筋からの最大上M波記録検査を行なった。介入では,自身の右手関節掌背屈運動を撮影した動画を視覚刺激とした。HMDで20分間観察させ,5日間反復した。初日と最終日の介入後に検査を実施した。TMS検査の背景条件は,手関節中間位の静止画(静止画条件)と掌背屈運動の動画(KiNvis様条件)の2条件とした。TMSは,単発および2連発刺激を用い,2連発の刺激間隔(ISI)は2ms,3ms,13msとした。運動誘発電位(MEP)は,右橈側手根伸筋および右橈側手根屈筋から記録し,TMSは動画の伸展相で行なった。初日の単発TMS強度は,安静時閾値の1.2倍とした。最終日は,初日のM波で正規化されたMEP振幅を基準とし,正規化MEP振幅が±10%以内となるように刺激強度を調整した。身体所有感と運動錯覚感(自身の本物の手が動いているように感じたか)を7段階リッカートスケールで評価した。統計学的解析として単発TMSは背景条件と測定日を要因とした二元配置分散分析,二連発TMSは各ISIで測定日を要因とした対応のあるt検定を行なった(p<0.05)。
【結果】
動画内の身体に身体所有感が生じたのは,初日は13名だったが最終日には17名に増加した。錯覚感の強さは有意に変化しなかった。初日は背景条件間で単発TMS検査結果に差がなかったが,最終日はKiNvis様条件で有意に増大していた。KiNvis様条件での2連発TMSでは,ISI-13msのMEP振幅比が初日よりも最終日は有意に大きかったが,ISI-2msと3msでは変化しなかった。
【結論】
HMDを用いると,KiNvis様条件でも必ずしもKiNvisを生じるとはいえず,トレーニングでも明らかに変化することはなかった。しかしCoST興奮性はトレーニング効果が得られることが示され,治療としてKiNvis様条件での視覚刺激提示を反復することは意義あるものと推測され,今後の臨床試験が必要である。
我々は,視覚誘導性自己運動錯覚(kinesthetic illusion induced by visual stimulation:KiNvis)を脳卒中片麻痺患者の治療に応用するための臨床試験を始め,製品開発が進んでいる。現在は,麻痺した四肢遠位端を人工的に生成した身体像の運動に置き換えることで実現する。これにロボティックデバイスや神経筋電気刺激装置を統合したシステムとするには,ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いた方法が有効である。しかしHMDを用いるとKiNvisが誘導されにくく,治療として有効である脳活動を誘導することが困難であると予測される。そこで上記問題を解決するため,HMDを用いたKiNvisを一定期間付与するトレーニング効果を多角的に調べる研究を遂行している。本研究は,KiNvisトレーニングの反復が視覚刺激を付与している最中の皮質脊髄路(CoST)興奮性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は健康な成人男女21名とした。介入として,KiNvisを反復するトレーニングを実施した。その前後に経頭蓋磁気刺激(TMS)によるCoST興奮性検査,および標的筋からの最大上M波記録検査を行なった。介入では,自身の右手関節掌背屈運動を撮影した動画を視覚刺激とした。HMDで20分間観察させ,5日間反復した。初日と最終日の介入後に検査を実施した。TMS検査の背景条件は,手関節中間位の静止画(静止画条件)と掌背屈運動の動画(KiNvis様条件)の2条件とした。TMSは,単発および2連発刺激を用い,2連発の刺激間隔(ISI)は2ms,3ms,13msとした。運動誘発電位(MEP)は,右橈側手根伸筋および右橈側手根屈筋から記録し,TMSは動画の伸展相で行なった。初日の単発TMS強度は,安静時閾値の1.2倍とした。最終日は,初日のM波で正規化されたMEP振幅を基準とし,正規化MEP振幅が±10%以内となるように刺激強度を調整した。身体所有感と運動錯覚感(自身の本物の手が動いているように感じたか)を7段階リッカートスケールで評価した。統計学的解析として単発TMSは背景条件と測定日を要因とした二元配置分散分析,二連発TMSは各ISIで測定日を要因とした対応のあるt検定を行なった(p<0.05)。
【結果】
動画内の身体に身体所有感が生じたのは,初日は13名だったが最終日には17名に増加した。錯覚感の強さは有意に変化しなかった。初日は背景条件間で単発TMS検査結果に差がなかったが,最終日はKiNvis様条件で有意に増大していた。KiNvis様条件での2連発TMSでは,ISI-13msのMEP振幅比が初日よりも最終日は有意に大きかったが,ISI-2msと3msでは変化しなかった。
【結論】
HMDを用いると,KiNvis様条件でも必ずしもKiNvisを生じるとはいえず,トレーニングでも明らかに変化することはなかった。しかしCoST興奮性はトレーニング効果が得られることが示され,治療としてKiNvis様条件での視覚刺激提示を反復することは意義あるものと推測され,今後の臨床試験が必要である。