The 52st Congress of Japanese Society of Physical Therapy

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日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » ポスター発表

[P-KS-08] ポスター(基礎)P08

Fri. May 12, 2017 12:50 PM - 1:50 PM ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[P-KS-08-1] ヒトの視覚運動変換におけるカルマンフィルタモデルによる隠れ状態推定のシミュレーション

山本 昌樹 (姫路獨協大学)

Keywords:視覚運動変換, 確率統計モデル, シミュレーション

【目的】ヒトの視標への手先到達運動は視覚-運動変換研究の典型的な実験課題の一つである。本研究はプリズム順応を用いた視覚運動変換の脳ダイナミクスを確率統計モデルによりシミュレーションを行った。目的は変換におけるヒトの内的システムの状態推定を隠れ状態変数の推定と仮定し,情報の選択から推定に至る変換アルゴリズムをモデルシミュレーションすること,さらに計算理論的に変換特性を明らかにすることである。



【方法】対象は成人健常者学生15名(平均年齢21.4±2.6歳)であった。対象者は三個の発光ダイオード(LED)が3.4cm間隔で水平に配置されたパネルに対座した。LEDはマイコン制御(IMTEC社製)でランダムに点灯する。課題はLEDへの右示指の到達運動とした。実験は三ブロックで構成され,ブロック1は裸眼でブロック2はプリズム眼鏡下にて,ブロック3は再び裸眼であった。試行回数は各ブロック30回であった。プリズム眼鏡の視野屈折変位量は左水平方向へ12diopterとした。ブロック2で二つの異なる視覚フィードバックを設定した(Location:手先軌道(-)到達位置(+),Path:手先軌道(+)到達位置(-))。Locationは手先軌道を遮るフードを設置した。PathはLED点灯後400msecに眼前の液晶パネル(竹井機器工業社製)により到達位置を遮蔽した。フィードバック操作のない群をコントロール(Control)とした。課題はハイスピードカメラ(EX-F1 CASIO社製)による動画撮影後,二次元動作解析機器(Frame-DIAS DKH社製)によりLEDと到達位置との誤差距離を算出した。ブロック2の誤差推移を線形離散モデル(Kitazawa 1997.)とカルマンフィルタモデル(カルマンモデル:Kalman 1961.)によりシミュレーションした。



【結果】順応の残効(ブロック2と3の比)は一元配値分散分析で有意な主効果があり,多重比較検定でControlとLocationはPathとの間に有意差を認めた(p<0.05)。モデルの適合基準は赤池情報量基準(Akaike 1992.)を採用した。Controlは,線形モデルは109.0,カルマンモデルは24.0であった。Locationはそれぞれ133.9と42.1,Pathは172.4と49.7であった。カルマンモデルの補正係数であるカルマン利得(システム誤差と観測誤差比)の平均は,Controlは0.15±0.08,Locationは0.22±0.11,Pathは平均0.65±0.38であった。



【結論】カルマンモデルは視覚運動変換の脳ダイナミクスを確率統計的に隠れ状態変数の推定として上手にシミュレートした。そのアルゴリズムはシステムの事前推定値をカルマン利得により補正し更新していく。ControlとLocationのカルマン利得が低い場合,状態推定は観測値よりも事前推定値にもとづき決定される。一方,利得の大きいPathでは事前推定の信頼度が低いため,状態推定は試行毎でシステム誤差と観測誤差の双方に影響を受けた。ヒトは内的な推定とフィードバックとの信頼度にもとづき推定アルゴリズムをスイッチングしている。