[P-KS-09-1] 感覚閾値以下のランダムノイズ振動刺激が触覚機能に及ぼす影響
Keywords:確率共鳴現象, 振動刺激, 体性感覚
【はじめに,目的】
感覚検知閾値以下の微小なノイズ振動刺激をランダムな周波数で同時に与えるだけでヒトの体性感覚機能が向上することが報告され,確率共鳴現象と呼ばれている(Collins 1995)。しかし,先行研究で用いられている体性感覚閾値の計測方法では信頼性が乏しいことも指摘されており(Moss, et al., 2005),確率共鳴現象(ランダムノイズ刺激)の効果は未だ明確ではない。本研究では,ヒトの体性感覚閾値の計測で最も信頼性の高い恒常法を用いて,ランダムノイズ刺激が体性感覚機能へ与える影響を心理物理的に検証することを目的とした。
【方法】
健常成人20名を対象に,指先での触振動刺激検出(tactile detection:TD)課題を実施した。被験者に対して100Hzの正弦波を9段階の振幅強度で無作為に10回ずつ与え(合計90回),被験者は指先で触振動刺激を検出できた時のみフットスイッチで回答した。本実験で与えた9段階の振幅強度は,実験前に被験者ごとに極限法にて規定した触振動覚閾値の40,60,80,100,120,140,160,180,200%とした。確率共鳴現象の有効性を検証するために,指の基節部に確率共鳴刺激[ランダムノイズ振動刺激(low pass:500Hz)]を感覚検知閾値以下で付与しながらTD課題を実施する条件(確率共鳴条件)と,指の基節部には何も刺激を与えずにTD課題を実施する条件(コントロール条件)を設けた。被験者は上記の2条件を無作為に振り分けられた順に実施した。それぞれの被験者におけるTD課題の成績を定量化するために,X軸をTD課題で用いた刺激強度,Y軸を被験者が刺激を検出できた回数(正答率)とし,それぞれの被験者のデータをプロットして,プロットされた座標点に対してロジスティック曲線を回帰させた。回帰させたロジスティック曲線から,50%の確率で検出できた刺激強度(point of subjective equality:PSE)を算出し,確率共鳴条件とコントロール条件を比較した(paired t-test)。なお,振動刺激はピエゾアクチュエーター(OPTO SCIENCE)で付与した。
【結果】
確率共鳴条件でのPSE(mean 97.6±7.6 SE%)は,コントロール条件(108±5.4%)よりも有意に低かった(p<0.01)。この結果は,ランダムノイズ条件では弱い触振動刺激でも検出できていたことを示しており,触覚機能が向上していることを意味している。
【結論】
本研究で用いた恒常法は,体性感覚閾値の計測方法の中で最も信頼度が高いとされている心理物理的手法である。したがって,本研究で得られた感覚検知閾値以下のランダムノイズ振動刺激によって確率共鳴現象が達成され,ヒトの触覚機能を高めることが確認できた。末梢神経障害などによる触覚鈍麻は運動技能とも関連し,患者のQOLを低下させる。確率共鳴現象は感覚検知閾値以下の刺激を用いることから,痛覚過敏を有する神経障害性疼痛患者に対しても適用可能で,神経障害患者に対する新しい物理療法の開発基盤となることが示唆された。
感覚検知閾値以下の微小なノイズ振動刺激をランダムな周波数で同時に与えるだけでヒトの体性感覚機能が向上することが報告され,確率共鳴現象と呼ばれている(Collins 1995)。しかし,先行研究で用いられている体性感覚閾値の計測方法では信頼性が乏しいことも指摘されており(Moss, et al., 2005),確率共鳴現象(ランダムノイズ刺激)の効果は未だ明確ではない。本研究では,ヒトの体性感覚閾値の計測で最も信頼性の高い恒常法を用いて,ランダムノイズ刺激が体性感覚機能へ与える影響を心理物理的に検証することを目的とした。
【方法】
健常成人20名を対象に,指先での触振動刺激検出(tactile detection:TD)課題を実施した。被験者に対して100Hzの正弦波を9段階の振幅強度で無作為に10回ずつ与え(合計90回),被験者は指先で触振動刺激を検出できた時のみフットスイッチで回答した。本実験で与えた9段階の振幅強度は,実験前に被験者ごとに極限法にて規定した触振動覚閾値の40,60,80,100,120,140,160,180,200%とした。確率共鳴現象の有効性を検証するために,指の基節部に確率共鳴刺激[ランダムノイズ振動刺激(low pass:500Hz)]を感覚検知閾値以下で付与しながらTD課題を実施する条件(確率共鳴条件)と,指の基節部には何も刺激を与えずにTD課題を実施する条件(コントロール条件)を設けた。被験者は上記の2条件を無作為に振り分けられた順に実施した。それぞれの被験者におけるTD課題の成績を定量化するために,X軸をTD課題で用いた刺激強度,Y軸を被験者が刺激を検出できた回数(正答率)とし,それぞれの被験者のデータをプロットして,プロットされた座標点に対してロジスティック曲線を回帰させた。回帰させたロジスティック曲線から,50%の確率で検出できた刺激強度(point of subjective equality:PSE)を算出し,確率共鳴条件とコントロール条件を比較した(paired t-test)。なお,振動刺激はピエゾアクチュエーター(OPTO SCIENCE)で付与した。
【結果】
確率共鳴条件でのPSE(mean 97.6±7.6 SE%)は,コントロール条件(108±5.4%)よりも有意に低かった(p<0.01)。この結果は,ランダムノイズ条件では弱い触振動刺激でも検出できていたことを示しており,触覚機能が向上していることを意味している。
【結論】
本研究で用いた恒常法は,体性感覚閾値の計測方法の中で最も信頼度が高いとされている心理物理的手法である。したがって,本研究で得られた感覚検知閾値以下のランダムノイズ振動刺激によって確率共鳴現象が達成され,ヒトの触覚機能を高めることが確認できた。末梢神経障害などによる触覚鈍麻は運動技能とも関連し,患者のQOLを低下させる。確率共鳴現象は感覚検知閾値以下の刺激を用いることから,痛覚過敏を有する神経障害性疼痛患者に対しても適用可能で,神経障害患者に対する新しい物理療法の開発基盤となることが示唆された。