第52回日本理学療法学術大会

講演情報

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » ポスター発表

[P-KS-24] ポスター(基礎)P24

2017年5月13日(土) 12:50 〜 13:50 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[P-KS-24-5] 変形性膝関節症者の歩行における筋シナジーパターンの特徴

久保田 圭祐1, 塙 大樹2, 国分 貴徳3, 園尾 萌香4, 平田 恵介1, 金村 尚彦3 (1.埼玉県立大学大学院保健医療福祉学研究科リハビリテーション学専修, 2.社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス東埼玉総合病院, 3.埼玉県立大学理学療法学科, 4.医療法人名圭会白岡整形外科)

キーワード:変形性膝関節症, 筋シナジー, 歩行

【はじめに,目的】

運動制御における冗長性問題の解決策として,筋シナジーが存在する。筋シナジーとは,活動タイミングが類似する筋活動をグループ化し,中枢神経系の制御を単純にしているという仮説である。その中で,ヒトの歩行は4つから5つの筋シナジーで達成されると報告された。本来,筋シナジーは中枢神経系の制御を解明するために発展したため,運動器疾患に対する応用は進んでいない。変形性膝関節症(以下,膝OA)は,異常筋活動を示すため,正常歩行とは異なる筋シナジーが抽出される可能性がある。そこで本研究の目的は,膝OAに特徴的な筋シナジーを抽出し,膝OA歩行の評価・治療に対する指標とすることである。


【方法】

対象は健常成人3名と疼痛のない膝OA患者3名とした。床反力計付きトレッドミル(BERTEC社),筋電計12ch(Delsys社)を用いて床反力,筋活動を測定した。対象筋は,片側の脊柱起立筋,大殿筋,中殿筋,大腿筋膜張筋,股関節内転筋群,大腿直筋,内側広筋,半腱様筋,大腿二頭筋,前脛骨筋,腓腹筋内側頭,ヒラメ筋の計12筋とした。被験者はトレッドミル(3km/h)で30秒の歩行を行い,筋活動データの10歩行周期分の加算平均波形を作成した。筋シナジーの抽出には非負値行列因子分解を用いた。健常成人と膝OA間の類似性の検討には,シナジー波形は相互相関分析,筋間活動比はピアソンの積率相関係数を用いた。


【結果】

膝OA患者3名のうち2名は明瞭な筋活動を示した筋が8筋で,抽出されたシナジー数が2つであった。残りの1名(grade2)は健常者と同様に3つのシナジー(シナジー1,2,3)が抽出されたため,各シナジーの類似性の検討を行った。各シナジーの活動は,シナジー1が荷重応答期,シナジー2が立脚後期,シナジー3が遊脚期に生じた。シナジー波形は,全被験者で高い相関を示し,シナジー1が0.97,シナジー2が0.93,シナジー3が0.95であった。健常成人と膝OA患者間の筋間活動比は,シナジー1が0.55,シナジー3が0.73と中等度の相関を示したのに対して,シナジー2が0.29と低い相関を示した。


【結論】

先行研究にて,歩行時の筋シナジーは不変であることが明らかとなっている。今回計測した膝OA患者においても,シナジー波形は健常者と類似したが,筋間活動比はシナジー2で差異が認められた。これは,本来シナジー2は腓腹筋とヒラメ筋をグループ化し下肢の蹴り出し時に活動するが,膝OA患者ではヒラメ筋のみ高い活動を示したためであると考えられる。腓腹筋は,前脛骨筋と共に荷重応答期に活動するシナジー1に共同収縮としてグループ化された。このことから,膝OAでは共同収縮の影響により健常成人と異なる非効率的な筋シナジーを呈することが示唆された。今後他の力学データとの対応関係について検証することで,膝OAの評価・治療に客観性の高い新たな指標として筋シナジーを使用できる可能性がある。