[P-KS-28-1] 痛みの社会的修飾メカニズムの一考
一夫一婦制げっ歯類を用いた基礎的研究
Keywords:疼痛, 心理社会的要因, 修飾メカニズム
【はじめに,目的】
疼痛は,心理社会的要因によって大きく変化することが報告されている。例えば,恋人の写真を見せたときは他人の写真と比べ有意にペインマトリックスの反応性を減少させる。また,手術前に不安が強い患者では不安の少ない患者に比べ術後痛が増強することが報告されている。しかし,これら痛みの増減と心理社会的要因による痛みの修飾メカニズムについてはほとんど分かっていない。
そこで本研究では,一夫一婦制を営む高社会性げっ歯類プレーリーハタネズミを用い,その社会環境を変化させることで,心理社会的要因による痛みの修飾メカニズムについて検討した。
【方法】
100-160日齢の雌雄プレーリーハタネズミを1週間同居させ,同居1週間後にプリファレンステストにより絆の有無を判定した。絆の確認できた雄を,パートナー雌と同居を継続させる群(以下,維持群)と別離させる群(以下,ロス群)に分け,その6日後に,両群の雄の後肢に炎症性疼痛を誘発させ(5%ホルマリン注射),脳と脊髄を採取した。採取した脳と脊髄において,Fos蛋白の発現を指標に炎症性疼痛時の活性度を維持群・ロス群において比較した。Fos蛋白の発現はFos抗体による免疫組織化学的染色法を用いて検出し,帯状回(Cg),島(Ins),前頭前野(PrF),側坐核Core・Shell(NAcC・NAcSh),と脊髄後角において解析を行った。さらに,これら領域に神経投射しているオキシトシンニューロン(OXT)・バソプレシンニューロン(AVP),およびドーパミンニューロン(DA)の活性度について,それぞれ室傍核(PVN)および腹側被蓋野(VTA)において同様に解析した。Fos発現量についての統計解析では,パートナー有無,脳領域,右・左脳を要因とする三元配置分散分析を用いた。また,脊髄とOXT・AVP・DAのFos発現量においては,維持・ロス群間における対応のないt検定を用いた。
【結果】
ペインマトリックスのFos蛋白発現において,パートナー有無による主効果が検出され,維持群はロス群に比べ有意に発現細胞数が多かった(維持群n=4:30.2±2.2個,ロス群n=4:20.2±2.1個,p<0.01)。また脳領域による主効果も検出された(p<0.01)が,右・左脳による主効果は検出されなかった。
パートナー有無・脳領域および右・左脳要因間での交互作用は認められなかったが,PrF・NAcC・NAcShにおいて維持群とロス群間の差が大きい傾向がみられた。さらに,維持群PVNにおけるOXTニューロンのFos発現量が,ロス群より多い傾向であった。
【結論】
炎症性疼痛時におけるペインマトリックスのFos発現量が,ロス群に比べ維持群で有意に多かったことから,パートナーの存在が痛み刺激に対するペインマトリックスの反応性を高めることが示唆された。さらに,パートナーによる痛みの修飾メカニズムとして,絆の形成・維持に重要であるOXTが関与している可能性が考えられた。
疼痛は,心理社会的要因によって大きく変化することが報告されている。例えば,恋人の写真を見せたときは他人の写真と比べ有意にペインマトリックスの反応性を減少させる。また,手術前に不安が強い患者では不安の少ない患者に比べ術後痛が増強することが報告されている。しかし,これら痛みの増減と心理社会的要因による痛みの修飾メカニズムについてはほとんど分かっていない。
そこで本研究では,一夫一婦制を営む高社会性げっ歯類プレーリーハタネズミを用い,その社会環境を変化させることで,心理社会的要因による痛みの修飾メカニズムについて検討した。
【方法】
100-160日齢の雌雄プレーリーハタネズミを1週間同居させ,同居1週間後にプリファレンステストにより絆の有無を判定した。絆の確認できた雄を,パートナー雌と同居を継続させる群(以下,維持群)と別離させる群(以下,ロス群)に分け,その6日後に,両群の雄の後肢に炎症性疼痛を誘発させ(5%ホルマリン注射),脳と脊髄を採取した。採取した脳と脊髄において,Fos蛋白の発現を指標に炎症性疼痛時の活性度を維持群・ロス群において比較した。Fos蛋白の発現はFos抗体による免疫組織化学的染色法を用いて検出し,帯状回(Cg),島(Ins),前頭前野(PrF),側坐核Core・Shell(NAcC・NAcSh),と脊髄後角において解析を行った。さらに,これら領域に神経投射しているオキシトシンニューロン(OXT)・バソプレシンニューロン(AVP),およびドーパミンニューロン(DA)の活性度について,それぞれ室傍核(PVN)および腹側被蓋野(VTA)において同様に解析した。Fos発現量についての統計解析では,パートナー有無,脳領域,右・左脳を要因とする三元配置分散分析を用いた。また,脊髄とOXT・AVP・DAのFos発現量においては,維持・ロス群間における対応のないt検定を用いた。
【結果】
ペインマトリックスのFos蛋白発現において,パートナー有無による主効果が検出され,維持群はロス群に比べ有意に発現細胞数が多かった(維持群n=4:30.2±2.2個,ロス群n=4:20.2±2.1個,p<0.01)。また脳領域による主効果も検出された(p<0.01)が,右・左脳による主効果は検出されなかった。
パートナー有無・脳領域および右・左脳要因間での交互作用は認められなかったが,PrF・NAcC・NAcShにおいて維持群とロス群間の差が大きい傾向がみられた。さらに,維持群PVNにおけるOXTニューロンのFos発現量が,ロス群より多い傾向であった。
【結論】
炎症性疼痛時におけるペインマトリックスのFos発現量が,ロス群に比べ維持群で有意に多かったことから,パートナーの存在が痛み刺激に対するペインマトリックスの反応性を高めることが示唆された。さらに,パートナーによる痛みの修飾メカニズムとして,絆の形成・維持に重要であるOXTが関与している可能性が考えられた。