The 52st Congress of Japanese Society of Physical Therapy

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日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » ポスター発表

[P-KS-30] ポスター(基礎)P30

Sat. May 13, 2017 12:50 PM - 1:50 PM ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[P-KS-30-3] 神経因性疼痛モデルラットを用いたトレッドミル運動による疼痛緩和メカニズム

角園 恵1, 大塚 章太郎1, 高田 聖也1, 寺師 拓斗1, 中西 和毅1, 上田 晃希1, 榊間 春利2 (1.鹿児島大学大学院保健学研究科, 2.鹿児島大学医学部保健学科)

Keywords:神経因性疼痛, グリア細胞, 内因性オピオイド

【はじめに,目的】

神経因性疼痛に対する運動負荷は疼痛過敏を緩和することが報告されているが,その疼痛緩和メカニズムに関しては不明な点も多い。今回,絞扼性神経損傷(Chronic Constriction injury:CCI)モデルを用いて1週,3週,5週後の脊髄後角におけるグリア細胞やopioid受容体の変化,opioid受容体の拮抗薬投与による疼痛変化を調べた。

【方法】

7週齢の雄性SDラットを運動群,非運動群,正常対照群(n=3)に分けた。右坐骨神経の結紮によりCCIモデルを作製し,速度20m/min,30分間,5日/週,5週間運動を行った。術前,CCI後1週,2週,3週,4週,5週にVon Frey Testを実施し,50%疼痛閾値を算出した。CCI後1週(運動群n=3,非運動群n=4),3週(運動群n=4,非運動群n=6),5週(運動群n=6,非運動群n=5)に腰膨大部と中脳を採取して免疫組織学的観察を行った。腰膨大部を抗Iba1抗体,抗GFAP抗体,抗μ-opioid受容体抗体で染色した。中脳水道灰白質は抗β-endorphin/met-enkephalin抗体で染色した。染色切片より陽性細胞面積を定量化した。3週と5週後に生理食塩水に溶解したNaloxone(10mg/kg)を運動群のラットの腹腔内に投与し,投与前,投与後1,2,3,4時間後に疼痛域値の変化を調べた(n=6)。統計学的検定には,SPSSを使用し一元配置または二元配置分散分析後,多重比較検定を実施し,有意水準は5%とした。

【結果】

CCI後1週で両群とも疼痛が最大となった。4週,5週には運動群の疼痛閾値は非運動群と比較して有意に改善を認めた。CCI後1週において,損傷側腰髄後角のIba1陽性細胞は両群ともに非損傷側と比較して有意に増加していた。非運動群のGFAP陽性細胞は損傷側と非損傷側において大きな違いは見られなかったが,運動群のGFAP陽性細胞は損傷側で増加していた。μ-opioid受容体陽性細胞は脊髄後角の第I層に限局して観察されたが,損傷側と非損傷側で明らかな染色性の違いは観察されなかった。3週,5週後には運動群のIba1とGFAP陽性面積は非運動群と比較して減少していた。運動群の中脳水道灰白質におけるβ-endorphin/met-enkephalin陽性細胞面積は非運動群と比べて有意に増加していた。Naloxone投与により運動群の疼痛域値の低下を認め,4時間後には投与前の値に回復した。

【結論】

運動による疼痛緩和のメカニズムとして内因性オピオイドシステムの活性化が知られている。動物実験では十分な強度と期間の運動は中枢と末梢のβ-endorphinの放出を生じ,疼痛軽減に関与していることが報告されている。今回の結果は,疼痛の発現や維持には脊髄後角におけるミクログリアやアストロサイトの活性化が関与しており,運動による疼痛緩和には脊髄後角でのグリア細胞の活性化抑制が影響していることを示した。Naloxone投与により疼痛が再燃したことより,運動による中脳水道灰白質における内因性オピオイドの増加がopioid受容体を介して疼痛緩和に作用していることが示唆された。