[P-KS-33-1] 経験に即したメタファーが運動パフォーマンスに与える影響
言語教示に対する多元的評価
Keywords:近赤外分光法, 二次元動作分析, 表面筋電図
【はじめに,目的】
セラピストは,患者に運動指導を行う際に,自分自身が運動している様子を体現したイメージである一人称イメージを想起させることが求められる。我々の表面筋電図(EMG)を用いた予備的調査では,メタファー(比喩表現)は一人称イメージを想起させ,筋運動感覚の知覚イメージと合致させるのに有効であった。本研究は,EMGに加え機能的近赤外分光装置(fNIRS)ならびに二次元動作分析を行うことによって,経験に即したメタフォリカルな言語教示が運動パフォーマンスに与える影響をより多元的に評価することを目的とした。
【方法】
対象は,右上肢に疾患を有さない右利きでダーツ未経験の健常成人15人(男性4人,女性11人,21.1歳±0.6歳)とした。課題に対する言語教示は①「肩・肘屈曲90度の状態から,肘を素早く伸展」,②「ダーツの矢を投げるように,肘を伸展」の2種類とした。実験第1日目に①(課題1)と②(課題2)を測定し,その後,半径10cm以内にダーツの矢が3回連続刺さるようになるまで練習を行った。さらに実験第2日目に②と同様の言語教示を行い,測定した(課題3)。二次元動作分析は,被験者の肩峰,上前腸骨棘,上腕骨外側上顆にマーカーを貼付し,ビデオカメラで撮影した。EMGは右上腕二頭筋,右上腕三頭筋外側頭に対する筋活動時間を解析対象とした。また,課題遂行中の大脳皮質活動をfNIRSで計測した。被験者の前頭部から頭頂部にかけて照射プローブ15本,受光プローブ15本を国際10-20法に基づき配置し解析対象は酸素化ヘモグロビン(OxyHb)とした。統計学的解析には,繰り返しのある1元配置分散分析を行い,有意水準はp<0.05とした。
【結果】
二次元解析の運動遂行中の肩関節屈曲の最小角度と最大角度,EMGの上腕二頭筋と上腕三頭筋の活動時間,fNIRSの3ch(前補足運動野)と8ch(前頭前野)において,課題1-3間,課題2-3間で有意差が認められた。しかし,条件1-2間では有意差は認められなかった。
【結論】
二次元動作解析,EMGおよびfNIRSの結果より,ダーツ未経験時には運動学的表現を用いた言語教示と,メタフォリカルな言語教示の間に違いは認められなかった。一方,ダーツの経験により動作の再現性は向上し,経験に即したメタフォリカルな言語教示の有用性が示唆された。また,fNIRSによる計測では課題3では課題1および2に比べ,前補足運動野の3chと前頭前野の8chで有意にOxyHbが増加した。これは,比喩表現による運動パフォーマンスが経験に影響され,ワーキングメモリに関わる前頭前野と運動学習過程を反映する前補足運動野が運動の再現に寄与したと考えられる。本研究により,患者の経験に沿ったメタファーを用いた言語教示が,効果的かつ効率的なリハビリテーションに貢献できると考えられる。
セラピストは,患者に運動指導を行う際に,自分自身が運動している様子を体現したイメージである一人称イメージを想起させることが求められる。我々の表面筋電図(EMG)を用いた予備的調査では,メタファー(比喩表現)は一人称イメージを想起させ,筋運動感覚の知覚イメージと合致させるのに有効であった。本研究は,EMGに加え機能的近赤外分光装置(fNIRS)ならびに二次元動作分析を行うことによって,経験に即したメタフォリカルな言語教示が運動パフォーマンスに与える影響をより多元的に評価することを目的とした。
【方法】
対象は,右上肢に疾患を有さない右利きでダーツ未経験の健常成人15人(男性4人,女性11人,21.1歳±0.6歳)とした。課題に対する言語教示は①「肩・肘屈曲90度の状態から,肘を素早く伸展」,②「ダーツの矢を投げるように,肘を伸展」の2種類とした。実験第1日目に①(課題1)と②(課題2)を測定し,その後,半径10cm以内にダーツの矢が3回連続刺さるようになるまで練習を行った。さらに実験第2日目に②と同様の言語教示を行い,測定した(課題3)。二次元動作分析は,被験者の肩峰,上前腸骨棘,上腕骨外側上顆にマーカーを貼付し,ビデオカメラで撮影した。EMGは右上腕二頭筋,右上腕三頭筋外側頭に対する筋活動時間を解析対象とした。また,課題遂行中の大脳皮質活動をfNIRSで計測した。被験者の前頭部から頭頂部にかけて照射プローブ15本,受光プローブ15本を国際10-20法に基づき配置し解析対象は酸素化ヘモグロビン(OxyHb)とした。統計学的解析には,繰り返しのある1元配置分散分析を行い,有意水準はp<0.05とした。
【結果】
二次元解析の運動遂行中の肩関節屈曲の最小角度と最大角度,EMGの上腕二頭筋と上腕三頭筋の活動時間,fNIRSの3ch(前補足運動野)と8ch(前頭前野)において,課題1-3間,課題2-3間で有意差が認められた。しかし,条件1-2間では有意差は認められなかった。
【結論】
二次元動作解析,EMGおよびfNIRSの結果より,ダーツ未経験時には運動学的表現を用いた言語教示と,メタフォリカルな言語教示の間に違いは認められなかった。一方,ダーツの経験により動作の再現性は向上し,経験に即したメタフォリカルな言語教示の有用性が示唆された。また,fNIRSによる計測では課題3では課題1および2に比べ,前補足運動野の3chと前頭前野の8chで有意にOxyHbが増加した。これは,比喩表現による運動パフォーマンスが経験に影響され,ワーキングメモリに関わる前頭前野と運動学習過程を反映する前補足運動野が運動の再現に寄与したと考えられる。本研究により,患者の経験に沿ったメタファーを用いた言語教示が,効果的かつ効率的なリハビリテーションに貢献できると考えられる。