[P-KS-35-4] 円背姿勢で滑りやすい床面を歩行したときの歩行様式
Keywords:円背, 滑路面, 歩行パターン
【はじめに,目的】
高齢者の転倒の原因として滑りによる機転が20~30%との報告がある。健常成人では滑らないように股関節の屈曲・伸展モーメントを増加させ,足を高く上げる戦略をとるとの報告があるが,高齢者にみられる円背姿勢での滑路面歩行に関しては,運動学や力学的に詳しく検討した報告は殆どみられない。本研究では円背姿勢で滑りやすい床面上を歩行した際に起こりうる戦略を,運動学・運動力学的観点から検討することを目的とした。
【方法】
対象は健常成人11名(年齢22.4±1.2歳,身長171.4±5.4cm,体重64.1±6.9kg)である。測定課題は,姿勢に関する「制限なし」と「円背」の2条件と,床面に関する「制限なし」と「滑路面」の2条件を組み合わせた合計4条件(制限なし,円背,滑路面,円背+滑路面)の歩行で,歩行速度は快適速度とした。円背の設定は高齢者疑似体験装置を用い,体幹前屈20°位で,膝関節は伸展-15°の制限を加えた。滑路面の設定は床反力計上にポリエチレン製シートを2枚重ね,足部にストッキングを履くことで滑りやすい状態を人工的に作った。三次元動作解析装置,床反力計,表面筋電計を同期させて,歩行速度因子,3方向床反力,下肢関節角度,関節モーメント,重心の変位,ならびに歩行中の滑りやすさの指標として立脚初期時の床反力水平成分を垂直成分で除した値(RCOF)を測定及び算出した。統計処理は各測定項目3試行の平均値を用いて4群間で比較した。Shapiro-Wilkの正規性の検定後,反復測定分散分析またはFriedman検定を行い,有意差が認められた場合には多重比較法で各条件間の比較を行った。
【結果】
RCOFは,制限なし(0.166±0.03)と比較し,円背(0.13±0.02),滑路面(0.11±0.01),円背+滑路面(0.09±0.01)の3条件で有意に減少を示し,円背+滑路面で最も減少した。床反力最大値は,上下方向の床反力(N/kg)は全ての条件で有意差はなく,円背と比較し,円背+滑路面で側方(円背:10.1±3.7,円背+滑路面:6.03±2.4),前後方向(円背:10.0±1.9,円背+滑路面:7.4±1.5)ともに床反力が有意に減少した。
円背と比較して円背+滑路面では,歩行速度が有意に減少,股関節屈曲モーメントが有意に増加した。
【結論】
円背姿勢に滑路面の条件が加わることで,速度を抑え,股関節屈曲モーメントを増加させて,より足部を高く上げる歩行を行っていることが考えられた。しかし,股関節屈曲角度やモーメントが増加する滑路面歩行の戦略とは異なり,円背姿勢の滑路面歩行では股関節屈曲角度の明らかな増加はみられなかった。この理由として,円背かつ滑路面の歩行では骨盤後傾の代償により,足部を高く上げる歩行様式を選択している可能性が考えられる。
高齢者の転倒の原因として滑りによる機転が20~30%との報告がある。健常成人では滑らないように股関節の屈曲・伸展モーメントを増加させ,足を高く上げる戦略をとるとの報告があるが,高齢者にみられる円背姿勢での滑路面歩行に関しては,運動学や力学的に詳しく検討した報告は殆どみられない。本研究では円背姿勢で滑りやすい床面上を歩行した際に起こりうる戦略を,運動学・運動力学的観点から検討することを目的とした。
【方法】
対象は健常成人11名(年齢22.4±1.2歳,身長171.4±5.4cm,体重64.1±6.9kg)である。測定課題は,姿勢に関する「制限なし」と「円背」の2条件と,床面に関する「制限なし」と「滑路面」の2条件を組み合わせた合計4条件(制限なし,円背,滑路面,円背+滑路面)の歩行で,歩行速度は快適速度とした。円背の設定は高齢者疑似体験装置を用い,体幹前屈20°位で,膝関節は伸展-15°の制限を加えた。滑路面の設定は床反力計上にポリエチレン製シートを2枚重ね,足部にストッキングを履くことで滑りやすい状態を人工的に作った。三次元動作解析装置,床反力計,表面筋電計を同期させて,歩行速度因子,3方向床反力,下肢関節角度,関節モーメント,重心の変位,ならびに歩行中の滑りやすさの指標として立脚初期時の床反力水平成分を垂直成分で除した値(RCOF)を測定及び算出した。統計処理は各測定項目3試行の平均値を用いて4群間で比較した。Shapiro-Wilkの正規性の検定後,反復測定分散分析またはFriedman検定を行い,有意差が認められた場合には多重比較法で各条件間の比較を行った。
【結果】
RCOFは,制限なし(0.166±0.03)と比較し,円背(0.13±0.02),滑路面(0.11±0.01),円背+滑路面(0.09±0.01)の3条件で有意に減少を示し,円背+滑路面で最も減少した。床反力最大値は,上下方向の床反力(N/kg)は全ての条件で有意差はなく,円背と比較し,円背+滑路面で側方(円背:10.1±3.7,円背+滑路面:6.03±2.4),前後方向(円背:10.0±1.9,円背+滑路面:7.4±1.5)ともに床反力が有意に減少した。
円背と比較して円背+滑路面では,歩行速度が有意に減少,股関節屈曲モーメントが有意に増加した。
【結論】
円背姿勢に滑路面の条件が加わることで,速度を抑え,股関節屈曲モーメントを増加させて,より足部を高く上げる歩行を行っていることが考えられた。しかし,股関節屈曲角度やモーメントが増加する滑路面歩行の戦略とは異なり,円背姿勢の滑路面歩行では股関節屈曲角度の明らかな増加はみられなかった。この理由として,円背かつ滑路面の歩行では骨盤後傾の代償により,足部を高く上げる歩行様式を選択している可能性が考えられる。