The 52st Congress of Japanese Society of Physical Therapy

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日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » ポスター発表

[P-KS-36] ポスター(基礎)P36

Sat. May 13, 2017 3:30 PM - 4:30 PM ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[P-KS-36-5] 妊娠期の腰椎骨盤周囲痛における椅子の立ち座り動作の関連について

森野 佐芳梨1,2, 梅崎 文子3, 畑中 洋子3, 山下 守3, 青山 朋樹4, 高橋 正樹1 (1.慶應義塾大学大学院理工学研究科, 2.日本学術振興会特別研究員, 3.医療法人葵鐘会, 4.京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻)

Keywords:妊婦, 腰椎骨盤痛, 動作解析

【はじめに,目的】

妊娠期には,代表的な不定愁訴の一つとして腰椎および骨盤周囲の疼痛が起こる。これには,日々繰り返される日常生活動作が深く関与すると考えられる。そこで本研究では,妊娠女性において慣性センサを用いて椅子の立ち座り動作を計測し,腰椎骨盤周囲痛との関連性について検討した。


【方法】

対象は妊娠12週以降の妊婦29名(31.4±4.8歳)とした。質問紙にて,椅子の立ち座り動作時の腰椎骨盤周囲痛の有無を調査した。次に,3軸慣性センサを第3腰椎棘突起部に装着し,椅子の立ち座り動作時の角速度情報を取得した。波形解析では,3軸のうち,ピッチ方向(体幹を前後に傾ける方向)の角速度データをもとに着座および立ち上がり動作を識別した。立ち座り動作中の角速度評価指標は確立されていないため,本研究では,腰部の角速度を用いて動作中のピークをプラス方向(Maximum peak)およびマイナス方向(Minimum peak)にて検出し,各ピーク値の差(PP:Peak to peak)を算出した。次に,各ピーク間の時間を検出し(Time of PP),PPをTime of PPで除した指標(PP/Time of PP)を算出した。さらに,波形データの実効値を表す二乗平均平方根(RMS:root mean square)を動作ごとに算出した。また,妊婦においては動作評価における体重変動の考慮が必要と考え,上記の5つの指標(Maximum peak,Minimum peak,PP,PP/Time of PP,RMS)を妊娠前からの体重増加量で除した値を算出した。統計解析では,どのような動作特性について疼痛有訴妊婦と無症状の妊婦との間に差異があるかを検討するため,対象者を椅子の立ち座り動作によって疼痛が誘発されるか否かによって2群に分け,対応の無いt検定を用いてピッチ方向の各動作評価指標について群間比較を行った。


【結果】

疼痛有訴妊婦(N=10)において無症状妊婦(N=19)と比較すると,立ち上がり時のMaximum peak,PP,PP/Time of PPが有意に大きく,Maximum peak/体重増加量,PP/体重増加量,RMS/体重増加量が有意に小さかった(p<0.05)。着座動作においては,疼痛有訴妊婦の方が無症状妊婦と比較すると,RMS/体重増加量が有意に小さかった(p=0.016)。


【結論】

本研究では,妊婦における椅子の立ち座り動作の動作戦略の差異が腰椎骨盤周囲の疼痛に関連していることが明らかになった。今回,有意な結果が得られた指標より,疼痛有訴妊婦は椅子からの立ち上がり時に体幹を前方に移行させる最大速度が大きく,後方から前方への傾斜最大速度の移行が大きいことに加え,それに要する時間が短く,短時間に体幹を前後方向に大きく動かしていることが分かる。また,これらの指標を確認する際に,体重増加量が大きいことも疼痛に関与する可能性が考えられた。これらのことから,妊娠期の腰椎骨盤周囲の疼痛対策には,椅子の立ち座り動作時の体幹運動に着目した動作教示を行い,その際には体重増加量の聴取が有効であると考えられる。