[P-KS-39-5] 大腿骨近位部骨折患者の術前のストレスは術後の機能障害に関連する
Keywords:大腿骨近位部骨折, ストレス, 機能障害
【はじめに,目的】
整形外科疾患における術前のストレスは術後の機能障害に影響する可能性がある。高齢期に生じやすい整形外科疾患として代表的な大腿骨近位部骨折は,術後の歩行障害や疼痛の遅延,うつ症状などの機能障害を呈しやすく,術後の機能・能力障害は在宅復帰を阻害し,患者のQuality of Lifeを低下させる。大腿骨近位部骨折に限ることではないが,術後の機能・能力障害に関連する因子の一つとして,麻酔や手術侵襲などの外科的ストレスの影響が数多くの先行研究で検討されており,外科的ストレスが術後の機能・能力障害に影響することに関してはコンセンサスが得られている。一方で,高齢者は身体機能や精神機能の低下から若年者と比較してもストレスを抱えやすく,高齢の大腿骨近位部骨折患者は骨折によるストレスの影響で,術前から過度なストレス状態にあると考えられる。術前のストレスと術後の機能・能力障害の関連性を明らかにすることができれば,術前のストレス評価から術後の機能・能力障害の程度を予測することができ,理学療法の目標設定の一助になりうると考えられる。しかし,術前のストレスと術後の機能・能力障害の関連性を検討した報告はない。本研究の目的は,術前のストレスが術後の身体機能,疼痛,抑うつ,炎症状態と関連するかどうかについて検討することであった。
【方法】
対象は,術前のMini Mental State Examinationが10点以上であった女性大腿骨近位部骨折患者12名(平均年齢81.3±6.9歳)であった。術後の機能は,身体機能をShort Physical Performance Battery(SPPB),疼痛をNumerical Rating Scale(NRS),抑うつをHospital Anxiety and Depression Scale(HADS),炎症状態をC-Reactive Protein(CRP)で評価し,それぞれ術後2週後に測定した。術前のストレスは,アクティブトレーサー(AC-301A)を用いて自律神経活動を測定し,17時~翌8時までの心電図のR-R間隔を記録した。術前ストレスの指標は,解析ソフト(Memcalc/Tarawa)による周波数領域解析から23時~翌7時までの超低周波数帯域(Very low frequency:VLF)の平均値とし,VLFの値が高いほどストレスが少ない,低いほどストレスが多いと定義した。統計解析は,術後のSPPB,NRS,HADS,CRPと術前のVLFの関連性をSpearmanの順位相関係数を用いた。有意水準は危険率5%とした。
【結果】
術前のVLFと術後のSPPBには有意な正の相関が認められ,相関係数は0.61であった(p<0.05)。術前のVLFと術後のNRS・HADS・CRPには有意な相関が認められなかった。
【結論】
大腿骨近位部骨折患者の術前のストレスは術後の身体機能に関連しており,術前のストレスが高いほど,術後の身体機能が低下することが明らかになった。術後の身体機能を予測するためには,術前のストレスを評価することが有用である可能性が考えられた。
整形外科疾患における術前のストレスは術後の機能障害に影響する可能性がある。高齢期に生じやすい整形外科疾患として代表的な大腿骨近位部骨折は,術後の歩行障害や疼痛の遅延,うつ症状などの機能障害を呈しやすく,術後の機能・能力障害は在宅復帰を阻害し,患者のQuality of Lifeを低下させる。大腿骨近位部骨折に限ることではないが,術後の機能・能力障害に関連する因子の一つとして,麻酔や手術侵襲などの外科的ストレスの影響が数多くの先行研究で検討されており,外科的ストレスが術後の機能・能力障害に影響することに関してはコンセンサスが得られている。一方で,高齢者は身体機能や精神機能の低下から若年者と比較してもストレスを抱えやすく,高齢の大腿骨近位部骨折患者は骨折によるストレスの影響で,術前から過度なストレス状態にあると考えられる。術前のストレスと術後の機能・能力障害の関連性を明らかにすることができれば,術前のストレス評価から術後の機能・能力障害の程度を予測することができ,理学療法の目標設定の一助になりうると考えられる。しかし,術前のストレスと術後の機能・能力障害の関連性を検討した報告はない。本研究の目的は,術前のストレスが術後の身体機能,疼痛,抑うつ,炎症状態と関連するかどうかについて検討することであった。
【方法】
対象は,術前のMini Mental State Examinationが10点以上であった女性大腿骨近位部骨折患者12名(平均年齢81.3±6.9歳)であった。術後の機能は,身体機能をShort Physical Performance Battery(SPPB),疼痛をNumerical Rating Scale(NRS),抑うつをHospital Anxiety and Depression Scale(HADS),炎症状態をC-Reactive Protein(CRP)で評価し,それぞれ術後2週後に測定した。術前のストレスは,アクティブトレーサー(AC-301A)を用いて自律神経活動を測定し,17時~翌8時までの心電図のR-R間隔を記録した。術前ストレスの指標は,解析ソフト(Memcalc/Tarawa)による周波数領域解析から23時~翌7時までの超低周波数帯域(Very low frequency:VLF)の平均値とし,VLFの値が高いほどストレスが少ない,低いほどストレスが多いと定義した。統計解析は,術後のSPPB,NRS,HADS,CRPと術前のVLFの関連性をSpearmanの順位相関係数を用いた。有意水準は危険率5%とした。
【結果】
術前のVLFと術後のSPPBには有意な正の相関が認められ,相関係数は0.61であった(p<0.05)。術前のVLFと術後のNRS・HADS・CRPには有意な相関が認められなかった。
【結論】
大腿骨近位部骨折患者の術前のストレスは術後の身体機能に関連しており,術前のストレスが高いほど,術後の身体機能が低下することが明らかになった。術後の身体機能を予測するためには,術前のストレスを評価することが有用である可能性が考えられた。