[P-KS-48-2] 地域在住高齢者の転倒有無が歩行時の関節協調性に与える影響
Keywords:地域在住高齢者, 歩行, 協調性
【はじめに,目的】
Uncontrolled manifold解析(UCM解析)は,関節運動の変動を運動遂行に重要な変動性(VUCM)と運動を阻害する変動性(VORT)に分ける手法である。VUCMがVORTより大きい場合,中枢神経系によって動作が制御されると解釈され,これはシナジー値として定量化される。この値が大きいほど,各関節が協調運動し安定性を獲得していると解釈される。安定性獲得は3段階で進行するとされている:1)VUCMとVORTが大きい状態,2)VUCMのみが大きい状態,3)VUCMとVORTが小さい状態。3)は変動が小さくエネルギー効率性が良い状態であるが,高齢者の歩行では3)が困難であるため,2)の戦略を代償的に用い,下肢関節を協調的に運動させていることが報告されている(Krishnan V. 2013)。この研究によって,若年者よりも高齢者は中枢神経系によって左右方向の遊脚側足部を制御していることは明らかとなったが,上下方向の遊脚側足部(足部クリアランス)については検討されていない。さらに転倒歴の有無が関節協調性に与える影響について調査した報告はない。そこで本研究では,転倒歴の有無によって下肢の関節協調性が変化するかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は地域在住高齢者21名とし,転倒群7名(81.6±3.4歳)と非転倒群14名(74.1±8.6歳)に分類した。測定課題は,快適歩行速度で6m歩行路を20回歩行することとした。運動学的データは,赤外線カメラ8台を用いた三次元動作解析装置Vicon MX(Vicon社製)で測定し,左右の下肢関節座標を算出した。UCM解析にはMATLAB(MathWorks社製)を用い,前額面のVUCM,VORT,シナジーを算出した。左右の下肢関節間が遊脚側足部位置を制御するために協調的に運動すればVUCMが増加する。歩行時の遊脚期は100%に正規化し,それぞれの変数に対して,全体の平均,遊脚期30%,遊脚期50%を計算した。遊脚期30%は遊脚肢の運動軌跡を制御する時期,遊脚期50%は最も足部が低くなる時期として使用した。統計学的処理では転倒群と非転倒群の2標本t検定を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
上下方向と左右方向について,転倒群は非転倒群と比べて全ての時期でVUCMが有意に高かった。また,上下方向の遊脚30%のシナジー値も,転倒群において有意に高値となった。他の変数に関しては有意な差は認めなかった。
【結論】
両群のシナジーは,遊脚期30%を除いた全てで同等であった。これに対し,転倒群のVUCMは常に高値であり,前額面の遊脚側足部を制御するために,下肢関節の変動をより大きくすることで協調性を維持していたことが分かった。また,遊脚期30%のシナジーは転倒群で高く,転倒群が中枢神経系によって遊脚肢の運動軌跡をより制御していることが示唆された。
Uncontrolled manifold解析(UCM解析)は,関節運動の変動を運動遂行に重要な変動性(VUCM)と運動を阻害する変動性(VORT)に分ける手法である。VUCMがVORTより大きい場合,中枢神経系によって動作が制御されると解釈され,これはシナジー値として定量化される。この値が大きいほど,各関節が協調運動し安定性を獲得していると解釈される。安定性獲得は3段階で進行するとされている:1)VUCMとVORTが大きい状態,2)VUCMのみが大きい状態,3)VUCMとVORTが小さい状態。3)は変動が小さくエネルギー効率性が良い状態であるが,高齢者の歩行では3)が困難であるため,2)の戦略を代償的に用い,下肢関節を協調的に運動させていることが報告されている(Krishnan V. 2013)。この研究によって,若年者よりも高齢者は中枢神経系によって左右方向の遊脚側足部を制御していることは明らかとなったが,上下方向の遊脚側足部(足部クリアランス)については検討されていない。さらに転倒歴の有無が関節協調性に与える影響について調査した報告はない。そこで本研究では,転倒歴の有無によって下肢の関節協調性が変化するかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は地域在住高齢者21名とし,転倒群7名(81.6±3.4歳)と非転倒群14名(74.1±8.6歳)に分類した。測定課題は,快適歩行速度で6m歩行路を20回歩行することとした。運動学的データは,赤外線カメラ8台を用いた三次元動作解析装置Vicon MX(Vicon社製)で測定し,左右の下肢関節座標を算出した。UCM解析にはMATLAB(MathWorks社製)を用い,前額面のVUCM,VORT,シナジーを算出した。左右の下肢関節間が遊脚側足部位置を制御するために協調的に運動すればVUCMが増加する。歩行時の遊脚期は100%に正規化し,それぞれの変数に対して,全体の平均,遊脚期30%,遊脚期50%を計算した。遊脚期30%は遊脚肢の運動軌跡を制御する時期,遊脚期50%は最も足部が低くなる時期として使用した。統計学的処理では転倒群と非転倒群の2標本t検定を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
上下方向と左右方向について,転倒群は非転倒群と比べて全ての時期でVUCMが有意に高かった。また,上下方向の遊脚30%のシナジー値も,転倒群において有意に高値となった。他の変数に関しては有意な差は認めなかった。
【結論】
両群のシナジーは,遊脚期30%を除いた全てで同等であった。これに対し,転倒群のVUCMは常に高値であり,前額面の遊脚側足部を制御するために,下肢関節の変動をより大きくすることで協調性を維持していたことが分かった。また,遊脚期30%のシナジーは転倒群で高く,転倒群が中枢神経系によって遊脚肢の運動軌跡をより制御していることが示唆された。