[P-KS-49-2] リフティング動作時に生じる腰痛の発生状況と疼痛関連因子の関係性について
Keywords:若年成人, 作業関連性腰痛, 疼痛関連因子
【はじめに,目的】
作業関連性腰痛(Work Related Low Back Pain,以下WRLBP)は,労働にともなう軽微な繰り返し作業などによって惹起される若い勤労世代に多い腰痛であり,WRLBPによって生じる労働力の低下や医療費の増大などが大きな社会問題となっている。そのため,WRLBPの病態解明や効果的な予防方法の確立は重要であるが,明らかな器質的異常所見を認めない場合が多いため,その病態については不明な点が多く,有効な予防方法についても一定した見解が得られていない。そこで本研究では,WRLBPの効果的な予防方法の確立に関する基礎的研究として,健常大学生を対象に,リフティング動作時に生じる腰痛の発生状況と疼痛関連因子との関係性について検討した。
【方法】
健常大学生80名(男性50名,女性30名,平均年齢20.0±1.3歳)を対象に,身体的要因として体幹伸展の最大筋力と可動域,指床間距離,両側SLR角度,心理的要因としてPOMS(気分),SDS(抑うつ),STAI(不安),MPI(性格),認知的要因としてCSQ(痛みに対する対処方略),GSES(自己効力感),JPSS(自覚的ストレス),その他の評価としてIPAQ(身体活動量),SF-36(健康関連QOL)を評価した。その翌週以降に30回のリフティング動作(2秒/回)を実施し,5回毎に腰痛の程度をNRSにて聴取した。なお,聴取したNRSの結果より,リフティング動作5回目の時点で腰痛の発生を認めた33名を発生群,発生を認めなかった47名を非発生群に分類した。統計学的解析は,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定を用いて両群間の比較を行った。また,リフティング動作5回目時点のNRSを従属変数とした重回帰分析で各評価項目との因果関係を検討した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
両群間で有意差を認めた項目は,リフティング動作終了時のNRS,SF-36の「身体機能」,「日常役割機能(精神)」,「心の健康」であり,発生群では非発生群と比較して,NRSは有意に高値,SF-36の3項目は有意に低値を示した。また,重回帰分析の結果ではリフティング動作終了時のNRS(β=0.51),SF-36の「心の健康」(β=-0.33)と「体の痛み」(β=0.25),CSQ「無視」(β=-0.21)が抽出された。
【結論】
本研究結果より,若年成人におけるWRLBPの発生要因には,「身体機能」や「日常役割機能(精神)」,「心の健康」などの健康関連QOLが関与しており,特に「心の健康」はWRLBPの発生に強い影響を及ぼしていることが推察された。したがって,若年成人のWRLBPの発生予防において,SF-36などを用いて健康関連QOLを評価することの有用性を示唆するとともに,理学療法の実施に際しても,身体機能に対する運動療法のみでなく,心の健康を良好な状態に維持するために患者教育などを併用することの重要性を示唆する内容と考える。
作業関連性腰痛(Work Related Low Back Pain,以下WRLBP)は,労働にともなう軽微な繰り返し作業などによって惹起される若い勤労世代に多い腰痛であり,WRLBPによって生じる労働力の低下や医療費の増大などが大きな社会問題となっている。そのため,WRLBPの病態解明や効果的な予防方法の確立は重要であるが,明らかな器質的異常所見を認めない場合が多いため,その病態については不明な点が多く,有効な予防方法についても一定した見解が得られていない。そこで本研究では,WRLBPの効果的な予防方法の確立に関する基礎的研究として,健常大学生を対象に,リフティング動作時に生じる腰痛の発生状況と疼痛関連因子との関係性について検討した。
【方法】
健常大学生80名(男性50名,女性30名,平均年齢20.0±1.3歳)を対象に,身体的要因として体幹伸展の最大筋力と可動域,指床間距離,両側SLR角度,心理的要因としてPOMS(気分),SDS(抑うつ),STAI(不安),MPI(性格),認知的要因としてCSQ(痛みに対する対処方略),GSES(自己効力感),JPSS(自覚的ストレス),その他の評価としてIPAQ(身体活動量),SF-36(健康関連QOL)を評価した。その翌週以降に30回のリフティング動作(2秒/回)を実施し,5回毎に腰痛の程度をNRSにて聴取した。なお,聴取したNRSの結果より,リフティング動作5回目の時点で腰痛の発生を認めた33名を発生群,発生を認めなかった47名を非発生群に分類した。統計学的解析は,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定を用いて両群間の比較を行った。また,リフティング動作5回目時点のNRSを従属変数とした重回帰分析で各評価項目との因果関係を検討した。有意水準は5%未満とした。
【結果】
両群間で有意差を認めた項目は,リフティング動作終了時のNRS,SF-36の「身体機能」,「日常役割機能(精神)」,「心の健康」であり,発生群では非発生群と比較して,NRSは有意に高値,SF-36の3項目は有意に低値を示した。また,重回帰分析の結果ではリフティング動作終了時のNRS(β=0.51),SF-36の「心の健康」(β=-0.33)と「体の痛み」(β=0.25),CSQ「無視」(β=-0.21)が抽出された。
【結論】
本研究結果より,若年成人におけるWRLBPの発生要因には,「身体機能」や「日常役割機能(精神)」,「心の健康」などの健康関連QOLが関与しており,特に「心の健康」はWRLBPの発生に強い影響を及ぼしていることが推察された。したがって,若年成人のWRLBPの発生予防において,SF-36などを用いて健康関連QOLを評価することの有用性を示唆するとともに,理学療法の実施に際しても,身体機能に対する運動療法のみでなく,心の健康を良好な状態に維持するために患者教育などを併用することの重要性を示唆する内容と考える。