[P-KS-52-5] ラット骨格筋挫滅損傷後に異なる刺激時間で寒冷療法を実施した際の筋再生過程の相違
Keywords:筋損傷, 筋再生, 物理療法
【はじめに,目的】
一般的に,スポーツ現場では急性期の筋損傷に対して,寒冷療法が用いられる(Knight, et al., 1994)。しかし,われわれの動物実験の結果,ラット骨格筋を挫滅した直後に20分間の寒冷刺激を行うと,筋再生を遅延させてしまうことがわかった(Takagi, et al., 2011)。臨床で使用するには,刺激時間の20分間は長すぎる可能性がある。そこで,本研究では先行研究よりも寒冷刺激の刺激時間を短くし,筋損傷に対する治療効果を調べることとした。
【方法】
8週齢のWistar系雄ラット(190±10g)30匹を,筋に挫滅損傷のみを実施する群(Con群),筋に挫滅損傷と10分間の寒冷刺激を実施する群(Crush+Icing 10min群:CI10群),筋に挫滅損傷と20分間の寒冷刺激を実施する群(CI20群)の3群に分けた。先行研究に倣い,各動物をイソフルラン麻酔下で左長趾伸筋を露出させ,500g重錘を付加した鉗子で筋腹を挟み,30秒間の挫滅損傷を与えた。その後,皮膚を縫合し,挫滅損傷5分後から,CI10群,CI20群には損傷部皮膚にアイスパックを当てた。挫滅損傷から6,12時間,1,2,3,4,5,6,7,14日後にそれぞれ1匹ずつ屠殺し,左長趾伸筋を採取し,約9μmの凍結切片を作成した。H-E染色の他,マクロファージの動態をED1免疫組織化学で観察した。また,7日後までの損傷筋線維周辺のマクロファージ数を数えた。14日後において中心核線維の全筋線維に対する割合と中心核線維の横断面積を計測し,群間で比較した。
【結果】
Con群は12時間後にはマクロファージが損傷筋内に進入していた。CI10群は1日後に,CI20群は1日後以降に進入していた。マクロファージ数はCon群とCI10群は2日後にピークとなるが,CI20群は3日後にピークとなった。損傷14日後に中心核線維の全筋線維に対する割合は,Con群よりもCI10群とCI20群が高値であった。14日後における中心核線維の横断面積は,Con群よりもCI20群が低値であった。
【結論】
無処置の筋再生が最もよく,寒冷刺激時間20分間では先行研究と同様に筋再生が阻害されていた。寒冷刺激10分間でも,20分間ほどの遅延はないが,筋再生が阻害されていた。先行研究(Takagi, et al., 2011)では再生に重要な因子(TGFβ1,IGF-I)を産生するマクロファージの遊走が寒冷刺激によって遅延するため,筋再生も遅延し,再生筋の成熟も遅らせたと考えた。本実験でも寒冷刺激時間が長いほど筋再生と成熟が遅延した。寒冷刺激を臨床で行う際,筋再生の観点から見ると刺激時間はより短いほうがよいと考えられた。
一般的に,スポーツ現場では急性期の筋損傷に対して,寒冷療法が用いられる(Knight, et al., 1994)。しかし,われわれの動物実験の結果,ラット骨格筋を挫滅した直後に20分間の寒冷刺激を行うと,筋再生を遅延させてしまうことがわかった(Takagi, et al., 2011)。臨床で使用するには,刺激時間の20分間は長すぎる可能性がある。そこで,本研究では先行研究よりも寒冷刺激の刺激時間を短くし,筋損傷に対する治療効果を調べることとした。
【方法】
8週齢のWistar系雄ラット(190±10g)30匹を,筋に挫滅損傷のみを実施する群(Con群),筋に挫滅損傷と10分間の寒冷刺激を実施する群(Crush+Icing 10min群:CI10群),筋に挫滅損傷と20分間の寒冷刺激を実施する群(CI20群)の3群に分けた。先行研究に倣い,各動物をイソフルラン麻酔下で左長趾伸筋を露出させ,500g重錘を付加した鉗子で筋腹を挟み,30秒間の挫滅損傷を与えた。その後,皮膚を縫合し,挫滅損傷5分後から,CI10群,CI20群には損傷部皮膚にアイスパックを当てた。挫滅損傷から6,12時間,1,2,3,4,5,6,7,14日後にそれぞれ1匹ずつ屠殺し,左長趾伸筋を採取し,約9μmの凍結切片を作成した。H-E染色の他,マクロファージの動態をED1免疫組織化学で観察した。また,7日後までの損傷筋線維周辺のマクロファージ数を数えた。14日後において中心核線維の全筋線維に対する割合と中心核線維の横断面積を計測し,群間で比較した。
【結果】
Con群は12時間後にはマクロファージが損傷筋内に進入していた。CI10群は1日後に,CI20群は1日後以降に進入していた。マクロファージ数はCon群とCI10群は2日後にピークとなるが,CI20群は3日後にピークとなった。損傷14日後に中心核線維の全筋線維に対する割合は,Con群よりもCI10群とCI20群が高値であった。14日後における中心核線維の横断面積は,Con群よりもCI20群が低値であった。
【結論】
無処置の筋再生が最もよく,寒冷刺激時間20分間では先行研究と同様に筋再生が阻害されていた。寒冷刺激10分間でも,20分間ほどの遅延はないが,筋再生が阻害されていた。先行研究(Takagi, et al., 2011)では再生に重要な因子(TGFβ1,IGF-I)を産生するマクロファージの遊走が寒冷刺激によって遅延するため,筋再生も遅延し,再生筋の成熟も遅らせたと考えた。本実験でも寒冷刺激時間が長いほど筋再生と成熟が遅延した。寒冷刺激を臨床で行う際,筋再生の観点から見ると刺激時間はより短いほうがよいと考えられた。