[P-KS-53-1] ラット前十字靭帯自己治癒過程における膠原線維の顕微的観察
Keywords:前十字靭帯, 自己治癒, Aldehyde Fuchsin-Masson Goldner染色
【はじめに,目的】
我々は,膝前十字靭帯(Anterior cruciate ligament:ACL)の完全損傷後,関節包外よりACL損傷後に生じる異常な関節運動を制御することでACLが自己治癒することを報告した(Kokubunら2016)。靭帯は主にコラーゲン分子の集合体であるコラーゲン線維と線維芽細胞で構成され,損傷後は線維芽細胞によるコラーゲン合成が行われることで組織は治癒へと向かう。現在までのところ複数の研究でACLの自己治癒が報告されているが,治癒メカニズム解明には至っていない。そこで本研究では,当研究室で開発した関節制動モデルを用い,ACL治癒過程の結合組織の変化を損傷後急性期の関節内に着目して組織学的に検討した。
【方法】
Wistar系雄性ラット(11週齢)6匹を対象とし,ACL非治癒(ACL-Transection:ACL-T)群とACL治癒群(Controlled abnormal movement:CAM)群に3匹ずつ振り分けた。各群右後肢を対象に,ACL-T群に対しACLの切断を行い,CAM群に対しACL切断後関節包外より脛骨の前方引き出しの制動を行った。損傷後5日時点で膝関節を採取し,4%PFAにて48時間固定後,10%EDTAを用いて脱灰処理した。脱灰後は,スクロース置換の後,凍結包埋した。ACL-T群の左後肢は,対照(Intact)群として採取し,同様の処理を実施した。包埋したサンプルは,14μmに薄切し,Aldehyde Fuchsin-Masson Goldner染色を実施後,光学顕微鏡で組織学的に観察した。
【結果】
Intact群では,連続性のあるACLが観察され,膠原線維は一定方向に配列していた。ACL-T群では,ACLの連続性はなく,中枢側断端の後方偏位や軟骨破壊が観察された。高倍率の観察では,関節内に幼若な間葉細胞が観察され,遊離した軟骨の周囲では軟骨細胞への分化が,その他では線維芽細胞への分化が観察された。いずれの間葉細胞も膝関節前面部に限局せず関節内に点在していた。CAM群では,ACLの連続性はないものの,中枢側断端の後方偏位や軟骨破壊は観察されなかった。高倍率での観察では,ACLT群と同様に幼若な間葉細胞と線維芽細胞への分化が観察された。さらにその局在は,ACLの断端間を狭小化するようにACL断端部と膝関節前面の滑膜・脂肪体周囲に観察された。
【結論】
本研究により,間葉細胞はACL損傷後,治癒の可否にかかわらず関節内に増殖し,関節制動により細胞局在が変化することが明らかとなった。さらに,ACL治癒への間葉細胞の関与が示唆された。今後,免疫組織化学染色を含めた経時的な観察をすることで,靭帯の治癒メカニズムを示すことができ,関節制動という早期運動療法がACLの治癒に不可欠であることを裏付ける可能性がある。
我々は,膝前十字靭帯(Anterior cruciate ligament:ACL)の完全損傷後,関節包外よりACL損傷後に生じる異常な関節運動を制御することでACLが自己治癒することを報告した(Kokubunら2016)。靭帯は主にコラーゲン分子の集合体であるコラーゲン線維と線維芽細胞で構成され,損傷後は線維芽細胞によるコラーゲン合成が行われることで組織は治癒へと向かう。現在までのところ複数の研究でACLの自己治癒が報告されているが,治癒メカニズム解明には至っていない。そこで本研究では,当研究室で開発した関節制動モデルを用い,ACL治癒過程の結合組織の変化を損傷後急性期の関節内に着目して組織学的に検討した。
【方法】
Wistar系雄性ラット(11週齢)6匹を対象とし,ACL非治癒(ACL-Transection:ACL-T)群とACL治癒群(Controlled abnormal movement:CAM)群に3匹ずつ振り分けた。各群右後肢を対象に,ACL-T群に対しACLの切断を行い,CAM群に対しACL切断後関節包外より脛骨の前方引き出しの制動を行った。損傷後5日時点で膝関節を採取し,4%PFAにて48時間固定後,10%EDTAを用いて脱灰処理した。脱灰後は,スクロース置換の後,凍結包埋した。ACL-T群の左後肢は,対照(Intact)群として採取し,同様の処理を実施した。包埋したサンプルは,14μmに薄切し,Aldehyde Fuchsin-Masson Goldner染色を実施後,光学顕微鏡で組織学的に観察した。
【結果】
Intact群では,連続性のあるACLが観察され,膠原線維は一定方向に配列していた。ACL-T群では,ACLの連続性はなく,中枢側断端の後方偏位や軟骨破壊が観察された。高倍率の観察では,関節内に幼若な間葉細胞が観察され,遊離した軟骨の周囲では軟骨細胞への分化が,その他では線維芽細胞への分化が観察された。いずれの間葉細胞も膝関節前面部に限局せず関節内に点在していた。CAM群では,ACLの連続性はないものの,中枢側断端の後方偏位や軟骨破壊は観察されなかった。高倍率での観察では,ACLT群と同様に幼若な間葉細胞と線維芽細胞への分化が観察された。さらにその局在は,ACLの断端間を狭小化するようにACL断端部と膝関節前面の滑膜・脂肪体周囲に観察された。
【結論】
本研究により,間葉細胞はACL損傷後,治癒の可否にかかわらず関節内に増殖し,関節制動により細胞局在が変化することが明らかとなった。さらに,ACL治癒への間葉細胞の関与が示唆された。今後,免疫組織化学染色を含めた経時的な観察をすることで,靭帯の治癒メカニズムを示すことができ,関節制動という早期運動療法がACLの治癒に不可欠であることを裏付ける可能性がある。