[P-KS-53-2] 環境温度がラット核心温度・外層温度および活動量に及ぼす影響
Keywords:温度, 活動水準, 環境
【はじめに,目的】
すべての生化学反応はアレニウスの法則に従って,温度に左右されている。ヒトを含む恒温動物は核心温度を一定の狭い温度域内に制御しているが,一方で,外層温度は外部の環境温度に影響を受けることが知られている。つまり四肢の組織内温度(外層温度)は環境温度により大きく変動し,組織代謝に影響を与えると考えられるが,その詳細は不明な点が多い。また,環境温度が行動性体温調節機構の一つである活動量に与える影響についても不明である。活動量自体が代謝活性や病態へ直接的に影響を及ぼすことから,その動態把握は重要である。そこで本研究では,環境温度がラットの核心温度と外層温度,および活動量に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
実験動物として12週齢のWistar系雄性ラットを用いた。核心温度は腹腔内(n=3)に,外層温度は背部皮下(n=3)および大腿外側部皮下(n=4)に温度データロガーを留置することで測定した。活動量は背部皮下に加速度センサーを留置することで測定した(n=5)。留置処置後,室温25℃環境で7日間飼育後,順番に室温32℃,28℃,23℃,18℃,13℃環境でそれぞれ3日間ずつ飼育し,各部位の温度および活動量を連続的に測定した。データの解析は,異なる室温に移った際の影響を排除するため,各室温における飼育3日目のデータを抽出し,一日の平均値,日中および夜間の平均値を算出し,統計学的に比較検討した。
【結果】
腹腔内温度の一日平均は室温32℃環境で23℃~13℃環境よりも有意に高かったが(P<0.01),32℃と13℃環境間の平均値の差は0.6℃程度であった。一方で,背部皮下および大腿外側部皮下の一日平均温度は室温依存性に有意に変化し(P<0.05),その変化量は大腿外側部皮下において顕著であった(背部皮下温度:室温32℃で37.3℃,室温28℃で37.0℃,室温23℃で36.7℃,室温18℃で36.5℃,室温13℃で36.2℃;大腿外側部皮下温度:室温32℃で36.6℃,室温28℃で35.9℃,室温23℃で35.1℃,室温18℃で34.2℃,室温13℃で33.5℃)。活動量に関しては,日中は室温間で有意な差は認められなかったが,夜間では室温32℃環境で有意に減少した(P<0.05)。
【結論】
ラットにおいて,室温28℃~13℃環境では核心温度である腹腔内温度および活動量に及ぼす影響は少ないことが明らかとなった。しかしながら,外層温度である背部皮下温度および大腿外側部皮下温度は室温に影響を受けること,そして,より遠位に位置する大腿外側部皮下の方がその変化量が大きいことが明らかとなった。室温を含む飼育環境は通常一定に制御されているが,施設ごとにその基準は異なる。日本動物実験協会は室温基準を18℃~28℃としており,その範囲は広い。今後は,四肢の組織温度が組織修復や物理刺激に対する反応に及ぼす影響を検討していくことを予定している。
すべての生化学反応はアレニウスの法則に従って,温度に左右されている。ヒトを含む恒温動物は核心温度を一定の狭い温度域内に制御しているが,一方で,外層温度は外部の環境温度に影響を受けることが知られている。つまり四肢の組織内温度(外層温度)は環境温度により大きく変動し,組織代謝に影響を与えると考えられるが,その詳細は不明な点が多い。また,環境温度が行動性体温調節機構の一つである活動量に与える影響についても不明である。活動量自体が代謝活性や病態へ直接的に影響を及ぼすことから,その動態把握は重要である。そこで本研究では,環境温度がラットの核心温度と外層温度,および活動量に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
【方法】
実験動物として12週齢のWistar系雄性ラットを用いた。核心温度は腹腔内(n=3)に,外層温度は背部皮下(n=3)および大腿外側部皮下(n=4)に温度データロガーを留置することで測定した。活動量は背部皮下に加速度センサーを留置することで測定した(n=5)。留置処置後,室温25℃環境で7日間飼育後,順番に室温32℃,28℃,23℃,18℃,13℃環境でそれぞれ3日間ずつ飼育し,各部位の温度および活動量を連続的に測定した。データの解析は,異なる室温に移った際の影響を排除するため,各室温における飼育3日目のデータを抽出し,一日の平均値,日中および夜間の平均値を算出し,統計学的に比較検討した。
【結果】
腹腔内温度の一日平均は室温32℃環境で23℃~13℃環境よりも有意に高かったが(P<0.01),32℃と13℃環境間の平均値の差は0.6℃程度であった。一方で,背部皮下および大腿外側部皮下の一日平均温度は室温依存性に有意に変化し(P<0.05),その変化量は大腿外側部皮下において顕著であった(背部皮下温度:室温32℃で37.3℃,室温28℃で37.0℃,室温23℃で36.7℃,室温18℃で36.5℃,室温13℃で36.2℃;大腿外側部皮下温度:室温32℃で36.6℃,室温28℃で35.9℃,室温23℃で35.1℃,室温18℃で34.2℃,室温13℃で33.5℃)。活動量に関しては,日中は室温間で有意な差は認められなかったが,夜間では室温32℃環境で有意に減少した(P<0.05)。
【結論】
ラットにおいて,室温28℃~13℃環境では核心温度である腹腔内温度および活動量に及ぼす影響は少ないことが明らかとなった。しかしながら,外層温度である背部皮下温度および大腿外側部皮下温度は室温に影響を受けること,そして,より遠位に位置する大腿外側部皮下の方がその変化量が大きいことが明らかとなった。室温を含む飼育環境は通常一定に制御されているが,施設ごとにその基準は異なる。日本動物実験協会は室温基準を18℃~28℃としており,その範囲は広い。今後は,四肢の組織温度が組織修復や物理刺激に対する反応に及ぼす影響を検討していくことを予定している。