The 52st Congress of Japanese Society of Physical Therapy

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日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT) » ポスター発表

[P-KS-54] ポスター(基礎)P54

Sun. May 14, 2017 1:00 PM - 2:00 PM ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本基礎理学療法学会(JSPTF・JFPT)

[P-KS-54-3] 健常成人における視覚情報操作による立ち直り反応の比較

菊地 謙, 新田 收, 網本 和 (首都大学東京理学療法学科)

Keywords:立ち直り反応, 視覚情報操作, ヘッドマウントディスプレイ

【目的】

人は発達に伴い,空間において頭位を平衡に保つ反応として,視覚や前庭覚からの刺激をもとに,姿勢調節機能に関与する立ち直り反応を獲得する。しかし,成長に伴う体性感覚の発達により姿勢調節における視覚や前庭覚への依存度は低下するという報告がある一方で,成長に伴っていずれかの感覚器に依存することはないという報告も存在する。

そこで本研究では健常成人に対して,視覚情報操作による立ち直り反応を比較することを目的とした。

【方法】

実験対象は健常成人10名とし,足底の接地しない速度制御可能な座位傾斜装置(ペアサポート社)を用いることで,立ち直りに関与する前庭刺激,体性感覚刺激を制御し,視覚刺激が立ち直り反応に与える影響を分析した。視覚情報は,あらかじめ撮影した平衡時の画像と傾斜する動画をヘッドマウントディスプレイの画面上に映すことで操作した。立ち直り反応を誘発するため,座位傾斜装置上に被験者を座らせ,利き手側に座面傾斜させた。傾斜角度は10°,傾斜速度は前庭覚刺激しない1.5°/secに設定した。立ち直り反応の計測はカメラ(CASIO製)を使用し,画面内にストップウォッチを撮影することで,経過時間を確認した。姿勢の変化は,眉間,胸骨上切痕,両側肩峰,両側上前腸骨棘および上前腸骨棘を結んだ線分上の臍直下部に貼付したマーカーを,画像処理ソフトImage Jにより解析した。

計測パラメータは,応答潜時(以下Reaction time,RT)[sec],頸部側屈角度変化(以下Neck Degree,ND)[°],体幹側屈角度変化(以下Trunk Degree,TD)[°]とした。

計測条件は,開眼,閉眼,視覚誤情報1(以下Visual Incorrect Information 1,VI1),視覚誤情報2(以下,VI2)とした。

VI1は,座面傾斜せずに画面上では傾斜していく動画を再生することで,視覚誤情報を与える条件とした。VI2は,座面傾斜に対して画面上では水平画像を再生することで,視覚誤情報と同時に体性感覚刺激を与える条件とした。

統計処理は,測定パラメータを従属変数,開眼,閉眼,VI1,VI2の4条件を独立変数とし,一元配置分散分析,およびBonferroni法による多重比較を行った。統計ソフトは,BMISPSSver22を用い,有意水準5%未満とした。

【結果】

VI1では立ち直り反応は見られなかった。その他の条件について,RTでは分散分析の結果有意差が示され,多重比較の結果,開眼,閉眼,VI2の順で有意に短縮していた。NDでは分散分析の結果有意差があり,開眼条件は閉眼とVI2それぞれの条件との間に有意差があった。TDでは有意差は示されなかった。

【考察】

VI1条件で立ち直り反応が見られなかったのに対し,VI2条件で体幹の立ち直り反応が生じたことから,健常成人は視覚よりも体性感覚優位の姿勢制御ではないかと示唆された。RTでは,視覚の遮断された閉眼条件よりもVI2条件が遅い反応を示したことから,視覚情報と体性感覚情報の衝突による反応の遅延が生じていたと考えられる。