[P-MT-13-3] TKA術後患者の退院時の歩行機能について
Keywords:人工膝関節全置換術, 歩行, 術後
【はじめに,目的】
人工膝関節全置換術(以下TKA)の目的の一つは歩行機能の改善である。しかし,2002年のOuelletらの報告によるとTKA術後患者において術後2ヶ月で術前よりも歩行速度が低下することが示されている(歩行速度:術前0.9±0.3m/s,術後0.7±0.2m/s)。また2010年のBadeらの報告においても術後1ヶ月で術前よりもTUGが低下していると報告しており(術前9.8±3.2秒,術後14.6±12.3秒),術後の一定期間は歩行機能が低下することが示されている。しかし,近年のインプラントの改良や手術手技の発展,入院期間の短縮からTKA術後の歩行機能は,以前より改善している可能性が考えられる。また,近年転倒リスクとの関連から1歩行周期時間の変動係数(以下歩行CV)や立脚時間の左右差(以下立脚比)の重要性が示されているが,TKA術後にどの程度改善しているのかは明らかにされていない。
そこで本研究は歩行速度,TUG,歩行CV,立脚時間比に着目して,TKA術後患者の退院時の歩行機能がどの程度改善しているのかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
当センターに入院し,変形性膝関節症と診断され,TKAを施行された症例23例を対象とする。対象者の選択条件は60歳以上,運動制限を必要とする合併症や認知症などによる理解力の低下がないこととした。全症例に通常の理学療法が行われた。基本属性として年齢,BMIを計測した。歩行機能は歩行速度(最速,通常),TUG,歩行CV,立脚比(術側立脚時間/非術側立脚時間×100)とした。1歩行周期時間と立脚時間は,30m歩行路歩行時に両下腿に装着した角速度計により計測された角速度波形から算出した。計測は手術前日及び退院日前日に行った。統計学的分析として,歩行機能の術前後における平均値の差の検定に対応のあるt検定を用いた。
【結果】
対象者の平均年齢は75.3±8.6歳,BMIは26.6±5.8kg/m2であった。測定日は術後17.9±2.9日であった。歩行機能の平均値は最速歩行速度(術前1.16±0.40m/s,退院時1.15±0.30m/s),通常歩行速度(術前0.96±0.28m/s,退院時0.92±0.28m/s),TUG(術前13.9±6.2秒,退院時13.0±4.3秒),歩行CV(術前2.9±1.2%,退院時3.1±1.2%),立脚比(術前97.0±6.4%,退院時97.7±3.9%)であった。歩行機能の全ての項目において術前と退院時で有意な差が認められなかった。
【結論】
歩行機能の全ての指標において術前と退院時に有意な差は認められなかった。また,歩行速度に関してはOuelletやBadeらの先行研究よりも良好な値を示した。しかし,歩行速度およびTUGは運動器症候群の基準値より低い値を示した。さらに,歩行CVに関しても先行研究の転倒経験のない高齢者の2.4%を下回り,転倒リスクが高いことが示された。以上のことから近年のTKA術後患者の退院時の歩行機能は術前と同程度まで改善しているが,転倒リスクや運動器症候群の観点から見ると,十分とは言えないため,さらなる改善の必要性が示された。
人工膝関節全置換術(以下TKA)の目的の一つは歩行機能の改善である。しかし,2002年のOuelletらの報告によるとTKA術後患者において術後2ヶ月で術前よりも歩行速度が低下することが示されている(歩行速度:術前0.9±0.3m/s,術後0.7±0.2m/s)。また2010年のBadeらの報告においても術後1ヶ月で術前よりもTUGが低下していると報告しており(術前9.8±3.2秒,術後14.6±12.3秒),術後の一定期間は歩行機能が低下することが示されている。しかし,近年のインプラントの改良や手術手技の発展,入院期間の短縮からTKA術後の歩行機能は,以前より改善している可能性が考えられる。また,近年転倒リスクとの関連から1歩行周期時間の変動係数(以下歩行CV)や立脚時間の左右差(以下立脚比)の重要性が示されているが,TKA術後にどの程度改善しているのかは明らかにされていない。
そこで本研究は歩行速度,TUG,歩行CV,立脚時間比に着目して,TKA術後患者の退院時の歩行機能がどの程度改善しているのかを明らかにすることを目的とした。
【方法】
当センターに入院し,変形性膝関節症と診断され,TKAを施行された症例23例を対象とする。対象者の選択条件は60歳以上,運動制限を必要とする合併症や認知症などによる理解力の低下がないこととした。全症例に通常の理学療法が行われた。基本属性として年齢,BMIを計測した。歩行機能は歩行速度(最速,通常),TUG,歩行CV,立脚比(術側立脚時間/非術側立脚時間×100)とした。1歩行周期時間と立脚時間は,30m歩行路歩行時に両下腿に装着した角速度計により計測された角速度波形から算出した。計測は手術前日及び退院日前日に行った。統計学的分析として,歩行機能の術前後における平均値の差の検定に対応のあるt検定を用いた。
【結果】
対象者の平均年齢は75.3±8.6歳,BMIは26.6±5.8kg/m2であった。測定日は術後17.9±2.9日であった。歩行機能の平均値は最速歩行速度(術前1.16±0.40m/s,退院時1.15±0.30m/s),通常歩行速度(術前0.96±0.28m/s,退院時0.92±0.28m/s),TUG(術前13.9±6.2秒,退院時13.0±4.3秒),歩行CV(術前2.9±1.2%,退院時3.1±1.2%),立脚比(術前97.0±6.4%,退院時97.7±3.9%)であった。歩行機能の全ての項目において術前と退院時で有意な差が認められなかった。
【結論】
歩行機能の全ての指標において術前と退院時に有意な差は認められなかった。また,歩行速度に関してはOuelletやBadeらの先行研究よりも良好な値を示した。しかし,歩行速度およびTUGは運動器症候群の基準値より低い値を示した。さらに,歩行CVに関しても先行研究の転倒経験のない高齢者の2.4%を下回り,転倒リスクが高いことが示された。以上のことから近年のTKA術後患者の退院時の歩行機能は術前と同程度まで改善しているが,転倒リスクや運動器症候群の観点から見ると,十分とは言えないため,さらなる改善の必要性が示された。