[P-MT-14-4] 変形性膝関節症患者における歩行時の自己身体認識能力の検討
バイオロジカルモーション課題を用いて
Keywords:変形性膝関節症, 歩行, 運動イメージ
【はじめに,目的】
変形性膝関節症(膝OA)患者の歩行能力に関連する要因として,下肢筋力低下などが報告されている。一方で,膝OAでは足部のメンタルローテーション(MR)課題における正答率の低下があり,自己身体をイメージすること,すなわち,自己身体認識能力の低下が示唆されている(Stanton,2012)。しかし,MRは局所的な運動イメージを求める課題であり,歩行という複合的な運動イメージを捉えることができない。そこで,本研究ではバイオロジカルモーション(BM)を用いることで,歩行時の自己身体認識能力を評価できるのではないかと考えた。ヒトは身体の各関節に装着した光の点が動くことで,その運動の方向性や意図などを読み取ることができる。この光点運動をBMと呼ぶ。本研究では,BM判別課題を用いて膝OAにおける歩行時の自己身体認識能力について検討することを目的とした。
【方法】
対象は膝OAと診断された患者12名(男性5名,女性7名,63.9±8.9歳)と,年齢をマッチングさせた健常者20名(男性1名,女性19名,66.1±5.8歳)である。なお,中枢神経疾患や認知機能低下を認める症例は除外した。認知機能の評価にはMini Mental State Examination(MMSE)を使用した。基本属性として年齢,身長,体重,Body Mass Index(BMI)を聴取した。自己身体認識能力の評価としてBM判別課題を用いた。自己の歩行映像をBM映像へと変換し,自己の歩行映像を含む異なる2つの歩行映像をパソコンの画面上に同時並列に呈示した。そして,キーボードのボタンを使用して自己の歩行映像か否かを回答させ,正答率と正反応時間を算出した。また,歩行能力として10m歩行時間を,歩行イメージ能力として10m歩行における実際の歩行時間とイメージの歩行時間との差を測定する心的時間測定を評価した。統計解析は,対応のないt検定,またはマンホイットニーのU検定を使用し各変数の群間比較を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
BM判別課題の正答率は,膝OA(50.8±14.4%)が健常者(64.0±19.2%)と比較して有意に低値を示したが(p<0.05),正反応時間は膝OA(5402.8±2632.4msec)と健常者(5552.9±3334.5msec)では有意差は認められなかった。また,10m歩行時間は膝OA(9.2±1.4sec)が健常者(7.7±1.1sec)に比べて有意に遅延を認めたが(p<0.01),心的時間測定では膝OA(1.4±2.1ec)と健常者(2.2±1.7sec)に有意差は認められなかった。
【結論】
歩行能力では膝OAは健常者と比較して低下を認めたが,心的時間測定では2群間に有意差は認められなかった。つまり,心的時間誤差は歩行能力の差を反映していないと考えられる。しかし,BM判別課題では膝OAの正答率に健常者と比較して有意な低下を認めた。これは膝OAにおける歩行時の自己身体認識能力の低下を示唆するものと考えられ,膝OAの歩行能力に関して,自己身体認識という認知的側面にも着目していく必要があると考える。
変形性膝関節症(膝OA)患者の歩行能力に関連する要因として,下肢筋力低下などが報告されている。一方で,膝OAでは足部のメンタルローテーション(MR)課題における正答率の低下があり,自己身体をイメージすること,すなわち,自己身体認識能力の低下が示唆されている(Stanton,2012)。しかし,MRは局所的な運動イメージを求める課題であり,歩行という複合的な運動イメージを捉えることができない。そこで,本研究ではバイオロジカルモーション(BM)を用いることで,歩行時の自己身体認識能力を評価できるのではないかと考えた。ヒトは身体の各関節に装着した光の点が動くことで,その運動の方向性や意図などを読み取ることができる。この光点運動をBMと呼ぶ。本研究では,BM判別課題を用いて膝OAにおける歩行時の自己身体認識能力について検討することを目的とした。
【方法】
対象は膝OAと診断された患者12名(男性5名,女性7名,63.9±8.9歳)と,年齢をマッチングさせた健常者20名(男性1名,女性19名,66.1±5.8歳)である。なお,中枢神経疾患や認知機能低下を認める症例は除外した。認知機能の評価にはMini Mental State Examination(MMSE)を使用した。基本属性として年齢,身長,体重,Body Mass Index(BMI)を聴取した。自己身体認識能力の評価としてBM判別課題を用いた。自己の歩行映像をBM映像へと変換し,自己の歩行映像を含む異なる2つの歩行映像をパソコンの画面上に同時並列に呈示した。そして,キーボードのボタンを使用して自己の歩行映像か否かを回答させ,正答率と正反応時間を算出した。また,歩行能力として10m歩行時間を,歩行イメージ能力として10m歩行における実際の歩行時間とイメージの歩行時間との差を測定する心的時間測定を評価した。統計解析は,対応のないt検定,またはマンホイットニーのU検定を使用し各変数の群間比較を行った。有意水準は5%とした。
【結果】
BM判別課題の正答率は,膝OA(50.8±14.4%)が健常者(64.0±19.2%)と比較して有意に低値を示したが(p<0.05),正反応時間は膝OA(5402.8±2632.4msec)と健常者(5552.9±3334.5msec)では有意差は認められなかった。また,10m歩行時間は膝OA(9.2±1.4sec)が健常者(7.7±1.1sec)に比べて有意に遅延を認めたが(p<0.01),心的時間測定では膝OA(1.4±2.1ec)と健常者(2.2±1.7sec)に有意差は認められなかった。
【結論】
歩行能力では膝OAは健常者と比較して低下を認めたが,心的時間測定では2群間に有意差は認められなかった。つまり,心的時間誤差は歩行能力の差を反映していないと考えられる。しかし,BM判別課題では膝OAの正答率に健常者と比較して有意な低下を認めた。これは膝OAにおける歩行時の自己身体認識能力の低下を示唆するものと考えられ,膝OAの歩行能力に関して,自己身体認識という認知的側面にも着目していく必要があると考える。