第52回日本理学療法学術大会

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日本運動器理学療法学会 » ポスター発表

[P-MT-17] ポスター(運動器)P17

2017年5月12日(金) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本運動器理学療法学会

[P-MT-17-3] 皮膚脆弱を伴う下腿切断患者に対し坐骨支持型免荷装具の使用を試みた一例

尾崎 圭一1, 橋本 伸吾1, 山口 健太1, 千原 美紀1, 川嶋 彩花2, 三上 貴子2, 中川 和也1,3, 進藤 篤史1, 安田 考志2, 村田 博昭1,3 (1.パナソニック健康保険組合松下記念病院リハビリテーション科, 2.パナソニック健康保険組合松下記念病院腎不全科, 3.パナソニック健康保険組合松下記念病院整形外科)

キーワード:下腿切断, 皮膚脆弱, 免荷装具

【はじめに】

坐骨支持型免荷装具は本来下肢骨折等の免荷装具として使用することが多い。今回,皮膚脆弱と低心機能を有する血液透析中の下腿切断患者に対し,坐骨支持型免荷装具を作成し,屋内歩行が可能となった症例を経験したので報告する。

【方法】

症例は50歳代,男性。両下肢末梢動脈疾患により,X年4月に左足部壊死が発生し,同年5月に他院で左下腿切断術を施行した。術後1週で当院に転院し,理学療法開始した。既往歴はX-9年から血液透析を開始,心臓手術も数回実施し,X-1年の心臓超音波検査ではLVEF20%,当院入院中にはLVEF15%と低心機能を示した。切断前ADLは屋外を車椅子,屋内を伝い歩きで短距離のみ移動可能であった。理学療法開始時の評価は可動域制限なし,上下肢粗大筋力はMMT4レベル,平行棒内での立ち上がりは近位監視で可能だが上肢支持優位であった。転院直後は断端浮腫と脛腓骨断端の突出が強く,断端管理はsoft dressingを実施した。しかし,弾性包帯を装着した時点で脛骨粗面や断端末部に発赤が生じ,積極的な管理は困難であったため,フィルムドレッシング材を貼布し,皮膚障害の発生予防を図った。義足の作成は皮膚脆弱により創傷や断端骨の露出を生じる可能性が高く,心機能面から実用的な歩行が獲得できるか不明瞭であったが,患者から「歩ける可能性があるなら義足を作りたい」という強い希望があったため,坐骨支持型免荷装具で歩行を試みた。装具作成は断端と坐骨部の皮膚障害予防や歩行の安定性を向上させるために装具重量と足部形態の検討を繰り返し行った。理学療法内容は上下肢筋力強化,荷重練習,歩行練習を中心とし,非透析日は機器を用いた持続的全身運動を加えて実施した。

【結果】

粗大筋力に著明な変化は認めなかったが,基本動作や移乗は物的支持で自立,車椅子自走可能となった。断端部に皮膚障害は生じず,浮腫軽減も認めた。装具作成は坐骨に荷重が集中するため,大腿や膝蓋腱での荷重分散も試みたが,歩行が不安定になり,坐骨支持のみとした。坐骨荷重部はクッション材を使用したことで疼痛や皮膚障害は認めなかった。作成開始時は筋力や持久性の低下が著しかったため装具の軽量化を重視したが,歩行練習を重ねた結果,動作効率の向上が図れ,歩行の安定性も向上した。歩行は4点杖を用いて屋内歩行が可能となり,自宅退院となった。

【結論】

透析患者は創傷治癒が得られにくく,断端の状態によっては歩行を断念せざるを得ない可能性もある。しかし,坐骨支持型の装具を使用すれば断端の接触が起こらないため創傷発生リスクは無くなる。皮膚脆弱というリスクを回避する場合には義足以外にも坐骨支持型免荷装具を選択肢として使用するのも手段のひとつであると考える。