The 52st Congress of Japanese Society of Physical Therapy

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日本運動器理学療法学会 » ポスター発表

[P-MT-22] ポスター(運動器)P22

Fri. May 12, 2017 3:30 PM - 4:30 PM ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本運動器理学療法学会

[P-MT-22-5] 術後感染によるベッドレストで「不使用の学習」をきたし,動作の運動・所作をイメージできなくなった症例

山下 選也, 中島 誠 (国立療養所栗生楽泉園)

Keywords:不使用の学習, 超高齢者, 廃用症候群

【はじめに,目的】

Taub(1993)は脳損傷による感覚入力の長期遮断で運動野における患肢の局在領域が減少して,患肢の運動をイメージできなくなる現象を「不使用の学習」と呼んだ。森岡ら(2013)は痛みによる運動制限でも「不使用の学習」が発生すると報告している。しかし,超高齢者の廃用からの「不使用の学習」に関する報告は少ない。今回,術後感染によるベッドレストを転機に廃用をきたし,「不使用の学習」によってADLが低下した症例を経験した。症例を通して超高齢者の廃用回復と運動学習の経過を報告する。

【方法】

症例は療養所で自立生活していた90歳女性。合併疾患に慢性肝炎,両側変形性股関節症(右THA,左変形と可動域制限重度)と異常歩行,脳梗塞後遺症(構音障害),心室頻拍を伴う突発性不整脈がある。左閉鎖孔ヘルニア術後感染による炎症(CRP:10.4)と低栄養(Alb1.7)でベッドレストになり,廃用をきたす。術後約10か月で炎症低下(CRP:3.5)と栄養状態向上(Alb:2.4)がみられ,運動療法を開始した。

初期評価時,全身の筋萎縮著明,両側の股関節屈曲筋力と膝関節伸展筋力はMMT2で同関節に運動時痛あり。上肢による食事のOKC(四肢の末端が非固定で自由に動く運動)動作は自立。起き上がり・起立などの基本動作は全介助で,動作には下肢・体幹の運動・所作がイメージできない,引っ張る運動に固執する,上肢・体幹・下肢を連動させた協調運動に乏しい,溺れた人がもがくように何でも掴もうとする行動,全身緊張と過呼吸が発生,などの特徴がみられた。

リハビリでは姿勢と動作の再学習を目標に①運動時の体性感覚フィードバック,②CKC(四肢の末端を固定した自重による抵抗運動)動作,③全身の協調運動,を重視した動作の反復を,フェーズで区切って段階的に実施した。起き上がりの学習では下肢の運動を誘導し,手で床を押す運動と体幹の側屈・回旋運動を協調させてバランスを保ちながら上体を起こす練習を行った。運動負荷は炎症,栄養,心拍などの状態を考慮して決定した。

【結果】

リハビリ開始から約6か月後(術後16ヶ月)にCRPは0.4に低下,Albは2.8に増加。動作獲得は24日目に起き上がり,75日目に平行棒立位10秒,約7か月後に車いす移乗が軽介助レベル,8か月後に平行棒歩行見守りレベル。9か月後の両側の股関節屈曲筋力と膝関節伸展筋力はMMT3に向上。

【結論】

「不使用の学習」に対して脳卒中患者への運動学習を応用したリハビリが有効であることが示唆された。慢性肝炎を持つ超高齢者でも栄養状態と筋力の回復は可能だが,回復のペースは遅く,プラトーは低くなると考えられる。筋力不足と変形性股関節症による可動域制限が合併して動作獲得を困難にしたことから,合併疾患の程度や組み合わせは動作獲得の可否を決定する大きな要因と考える。