第52回日本理学療法学術大会

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日本運動器理学療法学会 » ポスター発表

[P-MT-34] ポスター(運動器)P34

2017年5月13日(土) 12:50 〜 13:50 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本運動器理学療法学会

[P-MT-34-3] 変形性股関節患者の慢性疼痛に対する運動学習における長期的な効果

井伊 佑輔, 阪本 耀羽, 齊藤 真祐子, 岩城 隆久 (医療法人健幸会むかいじま病院診療部リハビリテーション科)

キーワード:変形性股関節症, 運動学習, 痛み

【はじめに,目的】

変形性股関節症の患者教育において,股関節の力学的負荷を軽減する日常生活動作や杖の指導を行うことが推奨されている。我々は抗重力位ではなく,関節への負荷を除去しながら大腿四頭筋とハムストリングスの筋収縮の協調性向上を目的に運動学習を行った結果,大腿部の痛みが軽減しADLの改善がみられた症例を経験した。そこで大腿部の痛みについて1年後の状態を検証したので報告する。


【方法】

対象はKellgren-Lawrence分類グレード2の進行期である左変形性股関節症と診断された60歳代後半の女性である。ABABデザインを採用し,基礎水準測定期(A)は日本整形外科学会治療ガイドラインに基づき関節可動域練習と筋力練習を実施。操作導入期(B)は関節可動域練習と筋力練習に加えて大腿四頭筋とハムストリングスの筋収縮における運動学習を行った。運動学習は長座位で膝窩部に加圧測定器を設置し,測定器を押す最大圧の50%を学習課題とした。試行回数は20回を5セットとし,Knowledge of Resultは3回に1度付与した。介入期間は4週間であり各期(1週間)において2回の介入を行った。その後Follow-upとし,基礎水準測定期(A)と同様のプログラムを継続して1週間に2回行った。左股関節は狭小化が進んでいるが,ADLは自立しており,移動はT字杖を使用している。主訴として介入当初は「大腿前面が痛く,しゃがみ込めない。」と訴えがあったが,運動学習後より訴えはなくなっていた。評価として1週目から4週目,6週目,7週目,22週目,37週目,74週目にしゃがみ込み動作時の大腿前面の痛み(Visual Analogue Scale:VASを使用),股関節と膝関節の筋力(ハンドヘルドダイナモメータを使用),片脚立位時間,Timed up and Go Test(TUG),30秒間立ち上がりテスト,1日の歩数を測定し運動学習後の効果検証を行った。


【結果】

しゃがみ込み動作時の大腿前面の痛みは運動学習実施後より軽減し,22週目から74週目で消失した。一日の歩数は運動学習実施後から増加を示した。74週目において左股関節痛が出現し,しゃがみ込み動作が困難となった。片脚立位,TUG,30秒間立ち上がりテストは37週目まで大きな変化はみられなかったが,74週目で低下を示した。筋力は大きな変化はなかった。


【結論】

運動学習終了後よりしゃがみ込み動作における大腿前面の痛みは減少し,その後消失した。運動制御過程における痛みの予期をコントロールし,大腿四頭筋とハムストリングスの協調的な筋収縮を生じさせたためと考える。74週目はしゃがみ込み動作時に大腿前面の痛みはなかったが,変形性股関節症の進行に伴い股関節痛が出現し,動作が困難となった。つまり変形性股関節症の進行を予防することはできなかったが,運動学習における筋の協調性効果は維持できていたと考える。