第52回日本理学療法学術大会

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[P-MT-36] ポスター(運動器)P36

2017年5月13日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本運動器理学療法学会

[P-MT-36-1] 両側一期的人工膝関節全置換術を施行した症例の理学療法経過と歩行解析の一考察
片側人工膝関節全置換術の症例と比較して

原田 太樹1,2, 坪内 優太1,2, 原田 拓也1, 松本 裕美1, 井上 仁1, 兒玉 慶司1,2, 兒玉 吏弘1, 木許 かんな1, 須藤 晴香1, 池田 真一1, 津村 弘1,2 (1.大分大学医学部附属病院リハビリテーション部, 2.大分大学大学院医学系研究科)

キーワード:両側一期的人工膝関節全置換術, 理学療法経過, 歩行解析

【はじめに】

両変形性膝関節症(以下両膝OA)に対する両側一期的TKA(以下両側TKA)の報告は近年増加しており,身体機能や深部静脈血栓症などの合併症について報告が散見される。しかし歩行のバイオメカニクスに着目した報告については我々が検索した範囲では見当たらない。

今回,年齢が若く患者の強い希望により両側TKAを施行した症例を経験した。その症例に対する理学療法経過及び歩行解析を中心に,片側TKAとの違いについて比較検討したため報告する。

【方法】

対象は50代女性(身長150cm,体重81.8kg,BMI36.4kg/m2)で両膝OAの診断にて両側TKAを施行した一例と,比較対象に両膝OAで片側TKA(右1・左4例)を施行した症例5名(平均年齢74.3±5.5歳,全例女性,身長150±0.1cm,体重67.4±3.8kg,BMI29.9±2.1kg/m2)とした。全6名は,他の整形外科疾患を有さず,術前退院共に独歩での計測が可能であった。片側TKAはクリニカルパス通りに経過し,特記する合併症はなかった。

歩行解析については3軸加速度計(MicroStone社製)を使用し,加速度センサは第3腰椎棘突起レベルに装着した。サンプリング周波数は200Hzとし,得られたデータから実効値の前後・左右・鉛直(以下RMSap・ml・v)成分を算出した。RMSは速度の影響を受けるため歩行速度の2乗値で除すことで調整した。また左右非対称性の評価として前額面リサージュ図形から得られるリサージュ指数(以下LI)を算出した。

【結果】

術前の歩行解析では,両側TKAでRMSap:3.95・ml:2.91・v:2.95m/sec2,LI:34.2%,片側TKAでRMSap:1.74±0.5・ml:1.56±0.3・v:2.25±0.2m/sec2,LI:24.9±15.3%と両側TKAで体幹動揺が大きい結果となった。

両側TKAの経過について,術後早期は屈曲可動域制限から起立着座が困難となり,歩行器歩行自立時期が遅れる結果となり,術後10日目に歩行器歩行自立,術後14日目にT字杖歩行自立となった。術後約3週に独歩可能な状態で自宅退院となった。

退院時の歩行解析では,両側TKAでRMSap:1.70・ml:1.35・v:1.73m/sec2,LI:20.6%,片側TKAでRMSap:1.54±0.3・ml:1.52±0.5・v:2.16±0.3m/sec2,LI:13.8±10.4%と,体幹動揺に差はなく,両側TKAにおいても左右非対称性が残存する結果となった。

【結論】

両側TKAを対象とした過去の報告では,離床・T-cane自立時期に有意差はない(宮井ら,2010),術前後のTUGに差はない(藤井ら,2011)と両側TKAと片側TKAの臨床成績に差はないことを報告しており,先行研究同様の結果となった。

しかし体幹の左右非対称性は両側TKAにおいても残存しており,これは術前の歩行能力や起立着座能力低下による歩行器歩行自立時期の遅延が影響していると考えられ,視覚的観察では判別しにくい歩容異常が明らかとなった。

今回両側TKAの症例を経験し,早期屈曲可動域獲得による歩行頻度の増加や非対称性に対する質的なアプローチの重要性が歩行解析を通じて明らかとなった。