[P-MT-52-3] 転倒恐怖感と運動イメージ能力・QOLとの関係性
Keywords:転倒恐怖感, Mental Chronometry, QOL
【はじめに・目的】
運動イメージとは,実際の動きを伴わずにある動作を想起するものである。運動イメージ能力の低下は,転倒との関係性を認めると多くの研究で示唆されている。さらに転倒恐怖感を有する者は心理的評価との相関を認められるとの報告もあるが健康関連QOL評価との関連に着目した報告は少ない。そこで今回転倒恐怖感という情動が運動イメージに対してどのように影響を与えるか検討すると同時に,QOLとの関連性を検討する。
【方法】
対象は当院入院患者で下肢または腰部整形疾患のあるものを対象とし,日常生活において歩行が可能な者とした。また認知症を有するものや理解に乏しいもの,研究に対して同意が得られなかったものは対象から除外した(男性2名,女性12名。平均年齢79.9±7.4歳)。転倒恐怖感においては日常生活を行う上で転倒に対する恐怖心の内省を聴取した。なお,転倒恐怖感がないものI群(男性2名,女性7名。平均年齢78.6±7.5歳)。転倒恐怖感があるものII群(男性0名,女性5名。平均年齢82.2±7.6歳)とした。方法はDecelyによる運動イメージ評価方法の心的時間測定法(Mental Chronometry:MC)を用いた。MCの計測は,Timed & Up Go Test(TUG)を行う環境で,実際にTUGを行うようにイメージするという条件で実施した(心的TUG)。心的TUGに要した時間はストップウォッチにて対象者が計測し,実際TUGと比較した。さらにEuro QOL 5dimension 5level(EQ-5D-5L)との2群間の比較・検討した。なお統計処理にはMann-WhitneyのU検定ならびに,Spearmanの順位相関係数を用い有意水準5%未満とした。
【結果】
I群の実際TUGは14.1±4.3秒,心的TUGは12.8±3.8秒となり強い相関を認めた(r=0.70)。またII群の実際TUGは18.9±2.3秒,心的TUGは12.7±4.6秒となり相関を認めなかった。さらにI群の誤差率は19.2±9.9%,II群の誤差率は37.1±17.0%であり,誤差率が高値を示し有意差を認めた(p<0.05)。心的イメージにおいて過小評価している割合の方が多く,I群では66%,II群では80%であった。EQ-5D-5Lならびに,下位項目では有意差を認めなかった。
【結論】
転倒に対する恐怖感が運動イメージを困難にしている可能性が示唆された。諸家による研究では加齢により主観的時間の短縮化が報告されている。今回の結果においても両群とも主観的にイメージした時間経過は客観的な時間経過よりも速くなる傾向であった。転倒恐怖感という情動面とEQ-5D-5Lの関連性がみられなかったのは入院患者による入院生活空間の狭小化が原因とも考えられる。また今回のMC評価において時間的要素のみの評価であったため,空間的要素を踏まえた検討や継続した評価が今後必要であると考える。
運動イメージとは,実際の動きを伴わずにある動作を想起するものである。運動イメージ能力の低下は,転倒との関係性を認めると多くの研究で示唆されている。さらに転倒恐怖感を有する者は心理的評価との相関を認められるとの報告もあるが健康関連QOL評価との関連に着目した報告は少ない。そこで今回転倒恐怖感という情動が運動イメージに対してどのように影響を与えるか検討すると同時に,QOLとの関連性を検討する。
【方法】
対象は当院入院患者で下肢または腰部整形疾患のあるものを対象とし,日常生活において歩行が可能な者とした。また認知症を有するものや理解に乏しいもの,研究に対して同意が得られなかったものは対象から除外した(男性2名,女性12名。平均年齢79.9±7.4歳)。転倒恐怖感においては日常生活を行う上で転倒に対する恐怖心の内省を聴取した。なお,転倒恐怖感がないものI群(男性2名,女性7名。平均年齢78.6±7.5歳)。転倒恐怖感があるものII群(男性0名,女性5名。平均年齢82.2±7.6歳)とした。方法はDecelyによる運動イメージ評価方法の心的時間測定法(Mental Chronometry:MC)を用いた。MCの計測は,Timed & Up Go Test(TUG)を行う環境で,実際にTUGを行うようにイメージするという条件で実施した(心的TUG)。心的TUGに要した時間はストップウォッチにて対象者が計測し,実際TUGと比較した。さらにEuro QOL 5dimension 5level(EQ-5D-5L)との2群間の比較・検討した。なお統計処理にはMann-WhitneyのU検定ならびに,Spearmanの順位相関係数を用い有意水準5%未満とした。
【結果】
I群の実際TUGは14.1±4.3秒,心的TUGは12.8±3.8秒となり強い相関を認めた(r=0.70)。またII群の実際TUGは18.9±2.3秒,心的TUGは12.7±4.6秒となり相関を認めなかった。さらにI群の誤差率は19.2±9.9%,II群の誤差率は37.1±17.0%であり,誤差率が高値を示し有意差を認めた(p<0.05)。心的イメージにおいて過小評価している割合の方が多く,I群では66%,II群では80%であった。EQ-5D-5Lならびに,下位項目では有意差を認めなかった。
【結論】
転倒に対する恐怖感が運動イメージを困難にしている可能性が示唆された。諸家による研究では加齢により主観的時間の短縮化が報告されている。今回の結果においても両群とも主観的にイメージした時間経過は客観的な時間経過よりも速くなる傾向であった。転倒恐怖感という情動面とEQ-5D-5Lの関連性がみられなかったのは入院患者による入院生活空間の狭小化が原因とも考えられる。また今回のMC評価において時間的要素のみの評価であったため,空間的要素を踏まえた検討や継続した評価が今後必要であると考える。