[P-NV-10-5] 回復期片麻痺患者における最大一歩幅の見積もり誤差が麻痺側・非麻痺側に与える影響
Keywords:回復期片麻痺者, 見積もり誤差, 最大一歩幅
【はじめに,目的】
高齢者における転倒は歩行中に発生することが多く,なかでも外的環境に対する自己身体能力の認識能力は転倒予防において重要な因子の一つといえる。歩行において自己の歩幅を予測するには,日常生活で行っている歩行動作など,過去の経験や記憶によって形成された内部モデルに基づく運動イメージの想起が必要である。近年,運動イメージ能力の低下は加齢や脳損傷が起因しているとの報告があるが,脳卒中片麻痺者を対象に麻痺側・非麻痺側間の関係性を検討している報告は少ない。そこで本研究では,片麻痺者の下肢振り出し動作時の認識能力について検討することを目的とした。
【方法】
対象は当院回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中片麻痺者23名(男性12名,女性11名,平均年齢73.6±6.3歳,発症後日数53.9±15.7日,麻痺側左11名,右12名)とした。著明な高次脳機能障害を有する者,または認知症を有し実験の内容を理解不能な者は除外した。対象者には,まず立位開眼で運動を行わない見積もり距離を出させた後,実測距離を測定した。見積もり誤差は実測距離から見積もり距離を減算して算出した。測定時,普段杖や下肢装具を使用している者は,測定時もそれらを用いることを条件とした。統計解析として,麻痺側と非麻痺側の見積もり誤差の比較はWilcoxonの符号検定を用いた。さらに,病棟の歩行安静度を基にした自立群(11名)と非自立群(12名)の見積もり誤差の関係性についてはMann-WhitneyのU検定を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
片麻痺者の見積もり誤差は麻痺側(13.2±7.7cm),非麻痺側(12.7±8.4cm)であり有意差は認められなかった。また,安静度で分けたとき,歩行自立群の見積もり誤差は麻痺側(12.4±6.6cm),非麻痺側(9.8±6.3cm)であり,非自立群は麻痺側(13.9±8.3cm),非麻痺側(15.2±9.9cm)となり,いずれも有意差は認められなかった。
【結論】
本研究の結果より,最大一歩幅動作の非麻痺側における見積もり誤差は麻痺側と同等の数値を示した。運動イメージは脳内にワーキングメモリが再生される過程と考えられていることから,片麻痺者は脳損傷によってワーキングメモリ機能低下を来したことにより,麻痺側・非麻痺側に関係なく適切な運動イメージの想起が困難であったと考えられる。加えて,過去の記憶や経験のなかで身体図式を形成するために必要な視覚情報と体性感覚情報の統合が不十分であったことも起因していると考えられる。また,安静度に分けた結果,歩行が自立しているからといって適切な運動イメージを有しているわけではないことが明らかとなった。したがって,片麻痺者を対象とした運動イメージに対する治療場面においては,安静度に関係なく,且つ麻痺側だけでなく非麻痺側への介入の必要性が示唆された。
高齢者における転倒は歩行中に発生することが多く,なかでも外的環境に対する自己身体能力の認識能力は転倒予防において重要な因子の一つといえる。歩行において自己の歩幅を予測するには,日常生活で行っている歩行動作など,過去の経験や記憶によって形成された内部モデルに基づく運動イメージの想起が必要である。近年,運動イメージ能力の低下は加齢や脳損傷が起因しているとの報告があるが,脳卒中片麻痺者を対象に麻痺側・非麻痺側間の関係性を検討している報告は少ない。そこで本研究では,片麻痺者の下肢振り出し動作時の認識能力について検討することを目的とした。
【方法】
対象は当院回復期リハビリテーション病棟入院中の脳卒中片麻痺者23名(男性12名,女性11名,平均年齢73.6±6.3歳,発症後日数53.9±15.7日,麻痺側左11名,右12名)とした。著明な高次脳機能障害を有する者,または認知症を有し実験の内容を理解不能な者は除外した。対象者には,まず立位開眼で運動を行わない見積もり距離を出させた後,実測距離を測定した。見積もり誤差は実測距離から見積もり距離を減算して算出した。測定時,普段杖や下肢装具を使用している者は,測定時もそれらを用いることを条件とした。統計解析として,麻痺側と非麻痺側の見積もり誤差の比較はWilcoxonの符号検定を用いた。さらに,病棟の歩行安静度を基にした自立群(11名)と非自立群(12名)の見積もり誤差の関係性についてはMann-WhitneyのU検定を用いた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
片麻痺者の見積もり誤差は麻痺側(13.2±7.7cm),非麻痺側(12.7±8.4cm)であり有意差は認められなかった。また,安静度で分けたとき,歩行自立群の見積もり誤差は麻痺側(12.4±6.6cm),非麻痺側(9.8±6.3cm)であり,非自立群は麻痺側(13.9±8.3cm),非麻痺側(15.2±9.9cm)となり,いずれも有意差は認められなかった。
【結論】
本研究の結果より,最大一歩幅動作の非麻痺側における見積もり誤差は麻痺側と同等の数値を示した。運動イメージは脳内にワーキングメモリが再生される過程と考えられていることから,片麻痺者は脳損傷によってワーキングメモリ機能低下を来したことにより,麻痺側・非麻痺側に関係なく適切な運動イメージの想起が困難であったと考えられる。加えて,過去の記憶や経験のなかで身体図式を形成するために必要な視覚情報と体性感覚情報の統合が不十分であったことも起因していると考えられる。また,安静度に分けた結果,歩行が自立しているからといって適切な運動イメージを有しているわけではないことが明らかとなった。したがって,片麻痺者を対象とした運動イメージに対する治療場面においては,安静度に関係なく,且つ麻痺側だけでなく非麻痺側への介入の必要性が示唆された。