第52回日本理学療法学術大会

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[P-NV-15] ポスター(神経)P15

2017年5月12日(金) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本神経理学療法学会

[P-NV-15-2] 慢性期脳卒中片麻痺患者の歩行時筋酸素動態に筋緊張が影響する

赤澤 奈緒1,3, 山根 一人2, 森沢 知之3, 玉木 彰3 (1.柴田病院リハビリテーション部, 2.株式会社アール・ケア, 3.兵庫医療大学大学院医療科学研究科)

キーワード:近赤外分光法, 脳卒中, 歩行

【はじめに,目的】

脳卒中片麻痺患者は歩行耐久性が低下しているが,この要因として末梢循環動態の影響が考えられる。脳卒中発症後は麻痺側下肢の安静時血流量が非麻痺側と比べ低下していると報告されているが,歩行時の活動筋への血流量と酸素動態について検討した報告は見当たらない。また,痙縮を伴う片麻痺患者では歩行時の活動筋血流量が阻害されることが予想される。そこで本研究では,痙縮の程度が歩行中の筋酸素動態に与える影響について検証した。

【方法】

対象は発症後6ヶ月以上経過した独歩可能な脳卒中片麻痺患者9名で,麻痺側下肢の痙縮の程度をModified Ashworth Scale(以下,MAS)にて検査し,その合計値を求め,亢進群5名(男3名,女2名,平均年齢±SD:65.8±8.3歳,MAS:1.8±1.1),正常群4名(男2名,女2名,平均年齢75.0±6.6歳,MAS:0)の2群に分類した。全対象者に2分間の安静後,6分間歩行テスト(以下,6MWT)を実施し,安静時と6MWT実施中の筋酸素動態,脈拍測定を行った。筋酸素動態は,近赤外分光法(以下,NIRS:酸素飽和度hb11,astem社製)を用い,下腿三頭筋にて測定し,酸素化ヘモグロビン変化量(以下,Δoxy-Hb),脱酸素化ヘモグロビン変化量(以下,Δdeoxy-Hb),総ヘモグロビン変化量(以下,Δtotal-Hb)を麻痺肢および非麻痺肢にて測定した。得られたNIRSデータは歩行中の1分毎に平均化し,安静時を基準とした変化率を求め,脈拍データは安静時と歩行中の1分毎に平均化を行った。統計処理は亢進群と正常群のNIRSデータと脈拍について,群間と経時的変化を要因とした分割プロット分散分析で検定を行い,有意水準は5%とした。

【結果】

脈拍は,2群とも安静時より増加を示した。麻痺肢と非麻痺肢のΔ%oxy-Hb,Δ%total-Hbは歩行開始後2群とも減少を示し,中でも麻痺肢の亢進群で減少率が大きかった。その後一定値で推移した。麻痺肢のΔ%deoxy-Hbは歩行開始後2群とも減少したが,正常群では歩行開始後2分で増加しその後一定値で安定したのに対して,亢進群では減少後,一定値で推移した。2群間において1分から6分まで有意な差を認めた(p<0.001)。非麻痺肢のΔ%deoxy-Hbは正常群の2分以降で1分と比べ有意に増加し(p<0.05),亢進群は歩行開始後ほぼ一定値で安定した。

【結論】

NIRSによって測定される酸素化レベルは,組織への酸素供給と消費のバランスにより決まる。健常者を対象とした一定強度の運動において,運動開始後Δoxy-HbとΔtotal-Hbは減少後,漸増するのに対して,Δdeoxy-Hbは増加するとされているが,本研究はこれらと異なる結果であった。Δ%oxy-Hb,Δ%total-Hbで減少率の大きかった麻痺肢の亢進群では,脈拍数が増加していたにもかかわらず毛細血管レベルでの酸素供給のバランスがより低下していたことが考えられ,麻痺肢の亢進群におけるΔ%deoxy-Hbの変化は,酸素消費のバランスが低下していたことが示唆された。