第52回日本理学療法学術大会

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日本神経理学療法学会 » ポスター発表

[P-NV-19] ポスター(神経)P19

2017年5月13日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本神経理学療法学会

[P-NV-19-1] 脊椎腫瘍患者に適したADL評価尺度の検討
~FIMとSCIMの比較から~

黒川 由貴1,2, 村上 英樹2, 加藤 仁志1,2, 櫻井 吾郎1, 吉田 信也1, 堀江 翔1, 八幡 徹太郎1,2 (1.金沢大学附属病院リハビリテーション部, 2.金沢大学大学院整形外科学)

キーワード:脊椎腫瘍, ADL, 評価

【はじめに,目的】がんの骨転移は,脊椎が最も多い。脊椎腫瘍による脊髄圧迫症状が進行すると麻痺が出現し,著しい身体機能の低下が見られるため,ADLの推移を適切に評価し,機能障害の予防・改善に取り組むことは重要である。Functional Independent Measure(FIM)は,がんのリハビリテーションガイドラインにおいてがん患者のADL評価として推奨される一方で,脊髄損傷者のADL評価としては不十分であるという報告がある。脊髄損傷患者に特異的なADL評価尺度にはSpinal Cord Independent Measure(SCIM)があり,その信頼性・妥当性が報告されているが,外傷性脊髄損傷例を対象にした研究が多く,がんの脊椎転移や原発性脊椎腫瘍の症例に使用した報告は少ない。本研究の目的は,FIMとSCIMを用いてADLを評価し,脊椎腫瘍患者に最も適したADL尺度を検討することである。


【方法】2010年4月~2016年9月までに当院に手術目的で入院した脊椎腫瘍患者130例を対象とし,術前の状態をカルテより後方視的に調査した。調査項目はFIM,SCIMと神経学的評価としてFrankel分類,がん患者の身体機能評価としてKarnofsky Performance Scale(KPS)を用いた。FIMは総得点と運動項目,SCIMは総得点とセルフケア・排泄と呼吸管理・移動領域の得点を算出し,分析を行った。Frankel分類はその重症度によりADL障害の程度が変化することが報告されている。そこで,Frankel分類の重症度で対象者を:AB群,C群,D群,E群に群分けし,群間比較を行うことで各尺度のADL評価法としての妥当性を検討した。さらに,KPSとFIM,SCIMの相関分析を行い,がん患者の身体機能特性を反映しているかを検証した。統計学的解析として,群間比較にはKruskal-Wallis検定の後,Steel-Dwass検定を行い,相関分析ではSpearmanの順位相関係数を求めた(p<0.05)。


【結果】FIMとSCIMの総得点はともにFrankel AB群vs C群を除く全ての群間で有意差を認めた(p<0.01)。一方,FIM運動項目とSCIMのセルフケアおよび移動領域において全ての群間に有意差が認められた(p<0.01)。さらに,KPSとの相関分析を行ったところ,FIMはρ=0.82,p<0.01,SCIMはρ=0.82,p<0.01と,ともにKPSと強い相関が見られた。


【結論】FIM,SCIMの総得点はともに検出力が同等であったが,FIM運動項目とSCIMセルフケア,移動領域では全ての群間に有意差が見られ,総得点よりも麻痺による違いが反映された。また,FIM,SCIMはともにKPSと強い相関があり,がんの身体機能を反映できていることが示唆された。以上より,脊椎腫瘍患者に適したADL評価としては,FIM運動項目またはSCIMの領域別得点を用いた検討が適していると考えられる。しかし,先行研究においてSCIMはFIMよりも評価時間が短く,高い検者間信頼性があり,脊髄損傷者の機能変化に対する反応性が高いことが報告されていることから,評価時間の短縮や脊髄損傷特有の障害を具体的に評価する上ではSCIMの領域別分析はFIM運動項目を用いた評価よりも有用と考えられた。