[P-NV-21-5] 注意機能障害を呈した重度片麻痺患者への歩行練習アシストの介入
キーワード:重度片麻痺, 注意機能障害, 歩行練習アシスト
【はじめに】
近年リハビリテーションロボットの開発が進み,臨床場面でも盛んに導入されるようになってきた。しかし一方で,歩行に対するロボットの効果は現時点では明確であるとはいえず,患者の症状に合わせたロボットの選定や難易度調整などが課題となっている。トヨタ自動車が藤田保健衛生大学と共同で開発したGait Exercise Assist Robot(以下GEAR)は精緻なアシスト調整と多数のフィードバックにより,常に適切な難易度で歩行練習が提供でき,当院でも2015年9月より導入実施している。今回,GEARの精緻なアシスト調整が有効に活用出来た重度片麻痺患者を経験したため,今後の有効な治療手段の一つになるのではないかと考え,ここに報告する。
【方法】
対象は右視床出血を受傷した70歳代男性。発症53日目よりGEARによる練習を開始した。GEAR開始時,Brunstrom Recovery Stage II,表在・深部感覚重度鈍麻,構成障害,注意機能障害を呈していた。歩行はサイドケイン,シューホンブレイス(以下SHB)を使用し,重度介助であった。歩容に関しては,麻痺側遊脚時股関節屈曲の動きが乏しく,セラピストが振り出しを実施していた。また非麻痺側下肢への重心移動が円滑に行えず,非麻痺側立脚時体幹が左前方へ崩れ介助量が多い状態であった。麻痺側立脚に関しても膝折れがみられていた。GEAR練習は1回40分を週5回,計12週間実施した。10m歩行速度(km/h),重複歩距離(cm),Functional Independence Measureの歩行(以下FIM歩行)を毎週末評価した。
【結果】
練習開始当初は麻痺側立脚・遊脚ともアシスト量は最大であったが,左右への重心移動を学習した後は,アシスト量の漸減が可能となった。その結果,四点杖とSHB使用し,自力で麻痺側下肢の振り出しが可能となった。FIM歩行は2点から5点へ,歩行速度は0.52km/hから0.7km/hへ,重複歩距離は40cmから55.6cmへと向上した。
【結論】
本症例は注意機能障害を呈しており,同時に2つ以上の指示を理解し処理することが困難であった。そのため麻痺側下肢の振り出しに注意が向いてしまうと,体幹が前方へ崩れても気づかず歩行不能となっていた。介助歩行では常に口頭指示と徒手的介入が必要で,他者に依存した歩行となっていた。そのような症例に対しGEARが麻痺側下肢の動きを担保することで,当初は体幹の重心移動のみを課題提供できた。十分な重心移動が学習できたことで,麻痺側下肢へ注意を向けても歩行可能となり,漸減的にアシスト量の調整が行えるようになった。GEARの使用により,初期より最終歩容類似の歩行練習を実施しながら,患者の注意機能に合わせ一つずつ課題を提供したことで,症例自身の制御方法の学習に繋がったと考える。GEARの精緻なアシストにより,患者自身で行う動作を尊重しつつ,ロボットが適切に介入し,常に限界難易度で歩行練習できることは,注意機能障害を呈した重度片麻痺患者に有効であると思われる。
近年リハビリテーションロボットの開発が進み,臨床場面でも盛んに導入されるようになってきた。しかし一方で,歩行に対するロボットの効果は現時点では明確であるとはいえず,患者の症状に合わせたロボットの選定や難易度調整などが課題となっている。トヨタ自動車が藤田保健衛生大学と共同で開発したGait Exercise Assist Robot(以下GEAR)は精緻なアシスト調整と多数のフィードバックにより,常に適切な難易度で歩行練習が提供でき,当院でも2015年9月より導入実施している。今回,GEARの精緻なアシスト調整が有効に活用出来た重度片麻痺患者を経験したため,今後の有効な治療手段の一つになるのではないかと考え,ここに報告する。
【方法】
対象は右視床出血を受傷した70歳代男性。発症53日目よりGEARによる練習を開始した。GEAR開始時,Brunstrom Recovery Stage II,表在・深部感覚重度鈍麻,構成障害,注意機能障害を呈していた。歩行はサイドケイン,シューホンブレイス(以下SHB)を使用し,重度介助であった。歩容に関しては,麻痺側遊脚時股関節屈曲の動きが乏しく,セラピストが振り出しを実施していた。また非麻痺側下肢への重心移動が円滑に行えず,非麻痺側立脚時体幹が左前方へ崩れ介助量が多い状態であった。麻痺側立脚に関しても膝折れがみられていた。GEAR練習は1回40分を週5回,計12週間実施した。10m歩行速度(km/h),重複歩距離(cm),Functional Independence Measureの歩行(以下FIM歩行)を毎週末評価した。
【結果】
練習開始当初は麻痺側立脚・遊脚ともアシスト量は最大であったが,左右への重心移動を学習した後は,アシスト量の漸減が可能となった。その結果,四点杖とSHB使用し,自力で麻痺側下肢の振り出しが可能となった。FIM歩行は2点から5点へ,歩行速度は0.52km/hから0.7km/hへ,重複歩距離は40cmから55.6cmへと向上した。
【結論】
本症例は注意機能障害を呈しており,同時に2つ以上の指示を理解し処理することが困難であった。そのため麻痺側下肢の振り出しに注意が向いてしまうと,体幹が前方へ崩れても気づかず歩行不能となっていた。介助歩行では常に口頭指示と徒手的介入が必要で,他者に依存した歩行となっていた。そのような症例に対しGEARが麻痺側下肢の動きを担保することで,当初は体幹の重心移動のみを課題提供できた。十分な重心移動が学習できたことで,麻痺側下肢へ注意を向けても歩行可能となり,漸減的にアシスト量の調整が行えるようになった。GEARの使用により,初期より最終歩容類似の歩行練習を実施しながら,患者の注意機能に合わせ一つずつ課題を提供したことで,症例自身の制御方法の学習に繋がったと考える。GEARの精緻なアシストにより,患者自身で行う動作を尊重しつつ,ロボットが適切に介入し,常に限界難易度で歩行練習できることは,注意機能障害を呈した重度片麻痺患者に有効であると思われる。