The 52st Congress of Japanese Society of Physical Therapy

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日本神経理学療法学会 » ポスター発表

[P-NV-25] ポスター(神経)P25

Sun. May 14, 2017 11:40 AM - 12:40 PM ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本神経理学療法学会

[P-NV-25-4] 注意障害を有する重度脳卒中片麻痺者に視覚誘導性自己運動錯覚を治療として適用できるか?

松田 直樹1, 金子 文成2,3, 柴田 恵理子3, 高橋 良輔1,3, 米田 将基1, 稲田 亨1, 小山 聡4 (1.旭川リハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.札幌医科大学保健医療学部理学療法学第一講座, 3.札幌医科大学保健医療学部未来医療ニューロリハビリテーション研究開発部門, 4.旭川リハビリテーション病院内科)

Keywords:視覚誘導性自己運動錯覚, 脳卒中, 注意障害

【はじめに】

視覚誘導性自己運動錯覚(錯覚)とは,四肢が動いている映像の観察によって,あたかも身体が動いているような知覚が生じることである。我々はこれまで,錯覚によって,脳卒中片麻痺者の上肢運動機能において即時的にポジティブな変化が生じることや,継続的な実施によって運動機能回復に変化が生じることを経験し,症例報告を行ってきた。しかし,錯覚を誘導するためには,提示された映像に注意を保持しなければならないという治療の特性を考慮し,これまでは注意障害のない症例における報告にとどまっていた。そこで今回,注意障害を有する症例に対しても錯覚を治療として適用できるか検討した。


【方法】

対象症例は,回復期病棟に入院している60代の男性脳卒中片麻痺者1名とした。発症からの期間は67日,Brunnstrom Recovery Stageは上肢II・手指IIIであった。高次脳機能障害は注意障害(TMT-A:83秒,TMT-B:473秒)を有していた。病棟生活及びリハビリテーション場面においては,注意の持続が困難であり,外部刺激に対して注意の転動が強く生じていた。認知機能は概ね保たれていた(MMSE 24点)。錯覚の誘導は,共同研究者の金子らが開発中のリハビリテーション機器KiNvisを用いて行った。KiNvisによる治療は,ソフトウェア上で左右反転された非麻痺側手指屈伸の映像を10分間観察することとした。そして,治療中に注意が保持できていたか,運動錯覚感の程度,手指運動機能を評価した。注意の評価として,治療中の対象者をKiNvisに内蔵されている暗視カメラで撮影し,提示された映像から注意が逸れた時間を測定した。自己運動錯覚の程度は,『自分の手が実際に動いているような感覚ある』に対してどの程度同意できるかを,映像観察直後に7リッカートスケールで評価した。手指運動機能評価として,手指屈伸運動中の第一背側骨間筋(FDI)と総指伸筋(EDM)の筋活動を表面筋電図にて記録した。筋活動の記録は,治療前後に5分間隔で2回ずつ行った。筋電図の解析は,手指屈伸運動中10秒間の各筋のRoot Mean Square(RMS)値を算出した。


【結果】

錯覚中,提示された映像から注意が逸れていた時間は10分中8.1秒間のみであり,その他の時間は映像を注視していた。また,錯覚の程度は7段階中で+2(そう思う)であり,錯覚を誘導することが可能であった。手指屈伸運動中のRMS値は,EDMよりもFDIにおいて治療前後の変化が大きく,治療後に増大していた(FDI_pre1:25.3μV,pre2:24.8μV,post1:30.0μV,pre2:29.5μV,EDM_pre1:16.6μV,pre2:16.2μV,post1:17.9μV,post2:18.3μV)。

【結論】

本症例の結果から,注意障害を有した重度片麻痺症例であっても,大半の時間で映像に注意を保持することができていた。結果的に錯覚が誘導され,RMS値は一部の筋で高くなっていた。以上のことから,注意障害を有する重度片麻痺症例に対しても視覚誘導性自己運動錯覚を治療として適用できる可能性が示唆された。