第52回日本理学療法学術大会

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日本神経理学療法学会 » ポスター発表

[P-NV-26] ポスター(神経)P26

2017年5月14日(日) 11:40 〜 12:40 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本神経理学療法学会

[P-NV-26-1] 系列運動課題・反転描写課題における下肢の半球優位性

矢藤 幸奈, 牧野 均 (北海道文教大学)

キーワード:両側性転移, 半球優位性, 運動学習

【はじめに,目的】

上肢の両側性転移の研究に,系列運動課題を用いた実験と反転描写課題を用いた実験がある。系列運動課題は記憶誘導性運動と呼ばれ,左半球が優位に活動する。また反転描写課題は視空間認知が介在し,右半球が優位に活動する。系列運動課題では左手練習による右手への学習転移が優位に生じ,反転描写課題では右手練習による左手への学習転移が優位に生じたとの報告がある。このことから上肢の片手運動において課題の半球優位性が両側性転移に影響すると考える。本研究では,下肢の両側性転移における半球優位性について明らかにすることを目的とした。そこで,上肢で実施された系列運動課題,反転描写課題を下肢で施行し,課題の学習効果の左右差から優位半球を特定し検討した。


【方法】

健常大学生72名(男性18名,女性18名)とし,全員右利きとした。被験者をA群(右足練習),B群(左足練習),C群(練習なし)に分け,各群12名で行った。系列運動課題では,一側下肢で4個のカスタネットを指示した順にタップさせた。反転描写課題では,10個のアルファベット(AからJ)を上下左右反転して描写させた。各課題共にA群は右足のみ,B群は左足のみ3日間練習を行い,C群はこの間一切の練習を行わなかった。この練習前後で,各課題とも両側足について遂行時間を測定し,3群間で比較した。


【結果】

系列運動課題では,練習前の遂行時間において,被験者群間に差はなかったが,右足が左足に比べ有意に短かった。練習後,非練習側に対して左足の練習効果のみ認めた。反転描写課題では,練習前の遂行時間において,被験者群間・左右両足間で差はなかった。練習後,両側とも非練習側に対して練習効果を認めたが,その差において右足の非練習側に対する練習効果が大きかった。


【結論】

系列運動課題では,左足練習による右足への学習転移のみ生じ,左半球が支配する右足がどちらの足で練習しても上手くなることから,下肢においても左半球優位性を認めた。反転描写課題では,学習転移においてどちらの足で練習しても転移が生じ両側性だった。しかし,効果において右足練習による効果が大きかったため右半球優位性が示唆された。系列運動課題は左足の練習効果のみ対側に現れたが,反転描写課題は両足とも練習効果が対側に現れていた。この理由として,反転描写課題は「書く」動作を含んでいたことで空間認知の他に言語中枢が働き,系列運動課題よりも半球優位性が明確に現れなかったと考える。加えて下肢は上肢より巧緻的な動作を行う場面が少なく,両側性に働きやすいとの報告があるため,上肢の実験より明確に半球優位性が現れなかったと考える。理学療法学研究としての意義として,本研究より,2つの課題の半球優位性の違いは半球損傷者の部位に応じた治療に役立つと考える。