[P-NV-29-1] 下肢運動麻痺が軽度にも関わらず麻痺側遊脚中期から後期にかけての膝伸展不全がみられたlisting phenomenonを伴った脳卒中例に対する理学療法経験
Keywords:脳卒中, 歩容異常, listing phenomenon
【はじめに,目的】
下肢運動麻痺が軽度でオルトップAFO装着下でT字杖歩行が可能であったが,麻痺側遊脚中~後期に麻痺側膝関節の伸展不全がみられた脳卒中片麻痺者を担当した。本症例はlisting phenomenon(LP)を呈し,歩行中には非麻痺側立脚相(USSD)の短縮がみられた。非麻痺側片脚立位保持トレーニングを実施した直後より,重複歩距離(SL)と歩行中のUSSDが増加し歩容異常が軽減した。本症例に対するアプローチと経過について報告する。
【方法】
症例は脳梗塞(左放線冠領域)を発症した50歳代の男性で,入院前ADLは全て自立していた。4病日より理学療法介入を開始し,24病日にはオルトップAFO装着下でT字杖歩行が可能となった。この時の理学療法評価は,JCS:1,BRS:IV-II-VI,腱反射:軽度亢進,感覚:表在覚のみ軽度鈍麻,BLS:1点であった。明らかな高次脳機能障害を認めなかった。TCTは100点,非麻痺側下肢MMTは4~5であり体幹機能,非麻痺側下肢筋力に明らかな異常を認めなかったが,非麻痺側片脚立位時間(USOLST)は最大でも2.5secであり,同程度の麻痺を呈する片麻痺者の平均値と比較し明らかに低下していた。歩行観察では麻痺側遊脚中期~後期にかけて麻痺側膝関節が十分に伸展できず,初期接地時に膝関節が屈曲位となる歩容異常がみられた。快適歩行速度(CWS)は49.8±2.6m/min,SLは93.8±2.5cm,USSDは0.84±0.2secであった。BLSが1点であることから本症例はLPを呈しており,非麻痺側下肢に十分に荷重できず,麻痺側へ傾斜するよう姿勢調節するためUSSDが短縮し,相対的に麻痺側の遊脚時間も短縮していると推察した。このため麻痺側遊脚相で十分に膝関節が伸展できず屈曲位のままの初期接地となると推察した。LPの出現を抑制しつつ非麻痺側へ十分に重心移動し,USSDを延長させることができれば本症例の異常歩容は改善すると推察し,姿勢鏡を使用したUSOLST保持練習を実施した。
【結果】
姿勢鏡を用いた練習を10分程度実施した直後より,CWS(50.3±3.6 m/min)に大きな変化はみられなかったが,SLが98.4±2.8cm,USSTが1.0±0.1secに増加し,麻痺側遊脚期の膝関節伸展不全が軽減した。トレーニングを継続したところ2週間後には,BLSは0点,USOLSTが22.2sec,CWSが64.8±2.3m/min,SLが114.4±3.8cmへ増加し,膝伸展不全はより改善した(記載外の評価項目は著変なし)。
【結論】
脳卒中後の姿勢定位障害の一つであるLPは,pusher症候群のように積極的に押す現象は観察されないものの麻痺側へ身体軸が傾斜する姿勢定位障害である(Karnath 2007)。本症例にみられたLPは軽度であったが,非麻痺側への身体軸傾斜を困難とさせ,非麻痺側立脚相と麻痺側遊脚相が短縮し,麻痺側遊脚中~後期における膝関節伸展不全及び歩行能力低下に関連したものと思われた。視覚的フィードバックを提供しつつ行った片脚立位トレーニングが奏功し,歩容異常の改善が得られたものと思われた。
下肢運動麻痺が軽度でオルトップAFO装着下でT字杖歩行が可能であったが,麻痺側遊脚中~後期に麻痺側膝関節の伸展不全がみられた脳卒中片麻痺者を担当した。本症例はlisting phenomenon(LP)を呈し,歩行中には非麻痺側立脚相(USSD)の短縮がみられた。非麻痺側片脚立位保持トレーニングを実施した直後より,重複歩距離(SL)と歩行中のUSSDが増加し歩容異常が軽減した。本症例に対するアプローチと経過について報告する。
【方法】
症例は脳梗塞(左放線冠領域)を発症した50歳代の男性で,入院前ADLは全て自立していた。4病日より理学療法介入を開始し,24病日にはオルトップAFO装着下でT字杖歩行が可能となった。この時の理学療法評価は,JCS:1,BRS:IV-II-VI,腱反射:軽度亢進,感覚:表在覚のみ軽度鈍麻,BLS:1点であった。明らかな高次脳機能障害を認めなかった。TCTは100点,非麻痺側下肢MMTは4~5であり体幹機能,非麻痺側下肢筋力に明らかな異常を認めなかったが,非麻痺側片脚立位時間(USOLST)は最大でも2.5secであり,同程度の麻痺を呈する片麻痺者の平均値と比較し明らかに低下していた。歩行観察では麻痺側遊脚中期~後期にかけて麻痺側膝関節が十分に伸展できず,初期接地時に膝関節が屈曲位となる歩容異常がみられた。快適歩行速度(CWS)は49.8±2.6m/min,SLは93.8±2.5cm,USSDは0.84±0.2secであった。BLSが1点であることから本症例はLPを呈しており,非麻痺側下肢に十分に荷重できず,麻痺側へ傾斜するよう姿勢調節するためUSSDが短縮し,相対的に麻痺側の遊脚時間も短縮していると推察した。このため麻痺側遊脚相で十分に膝関節が伸展できず屈曲位のままの初期接地となると推察した。LPの出現を抑制しつつ非麻痺側へ十分に重心移動し,USSDを延長させることができれば本症例の異常歩容は改善すると推察し,姿勢鏡を使用したUSOLST保持練習を実施した。
【結果】
姿勢鏡を用いた練習を10分程度実施した直後より,CWS(50.3±3.6 m/min)に大きな変化はみられなかったが,SLが98.4±2.8cm,USSTが1.0±0.1secに増加し,麻痺側遊脚期の膝関節伸展不全が軽減した。トレーニングを継続したところ2週間後には,BLSは0点,USOLSTが22.2sec,CWSが64.8±2.3m/min,SLが114.4±3.8cmへ増加し,膝伸展不全はより改善した(記載外の評価項目は著変なし)。
【結論】
脳卒中後の姿勢定位障害の一つであるLPは,pusher症候群のように積極的に押す現象は観察されないものの麻痺側へ身体軸が傾斜する姿勢定位障害である(Karnath 2007)。本症例にみられたLPは軽度であったが,非麻痺側への身体軸傾斜を困難とさせ,非麻痺側立脚相と麻痺側遊脚相が短縮し,麻痺側遊脚中~後期における膝関節伸展不全及び歩行能力低下に関連したものと思われた。視覚的フィードバックを提供しつつ行った片脚立位トレーニングが奏功し,歩容異常の改善が得られたものと思われた。