第52回日本理学療法学術大会

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[P-SK-01] ポスター(支援工学)P01

2017年5月13日(土) 15:30 〜 16:30 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本支援工学理学療法学会

[P-SK-01-2] リハビリ応用を見据えた脳筋骨格系モデルの実現可能性について

市村 大輔1,2, 山﨑 匡2 (1.平成扇病院, 2.電気通信大学情報理工学研究科)

キーワード:小脳モデル, 筋骨格系2足歩行モデル, 小脳損傷

【はじめに,目的】

個々に応じた効果的なリハビリは,確立されてるとは言えず,仮説を提唱していくことが重要である。仮説の構築には数値シミュレーションが非常に有効な方法の一つである。そこで我々は患者個人の状態を取り入れたモデルを構築すれば,シミュレーションによって計算機上でリハビリを試せると考えた。本研究ではその第1段階として歩行に着目し,病態モデルの構築,患者個人モデルの構築,この2点が実現可能かどうかを検証した。そのため,まずは単純化された小脳-筋骨格系モデルを構築した。そして,病態モデルとして小脳機能と歩行の関係性を確認すること,患者個人モデルを構築できるのかを確かめるため,個人に適した未知なるパラメータを計算機上で探索・獲得できるかの検討をすること,これらを目的とした。

【方法】

我々は多賀ら(1991)が構築した下肢2次元神経筋骨格系モデルと山崎ら(2005)が構築した小脳内部時計モデルを組み合わせた,小脳-筋骨格系2足歩行モデルを計算機上に構築した。このモデルは,それぞれの関節に対し歩行パターンを生み出すCentral Pattern Generator(CPG)モデル,地面に足が接地するタイミングを予測する小脳モデルが組み込まれている。足部が地面に接地する際の感覚フィードバックに少しの遅れを導入し,それを小脳モデルが学習し,予測制御により補償させた。このモデルで小脳モデルが機能している時,していない時で歩行のダイナミクスの違いを検討した。さらに小脳損傷患者1症例の矢上面上の歩行とそれを比較した。また個人を反映する歩行モデルの実現可能性を探るため測定不可能な数多くの未知なるパラメータを遺伝的アルゴリズム(GA)を用い並列計算により探索した。

【結果】

小脳-筋骨格系2足歩行モデルのシミュレーションより,小脳が機能している時は安定した2足歩行が可能であった。両側小脳を停止すると転倒してしまった。片側小脳を停止すると転倒はしないが,停止した側の脚が高く上がることを確認した。これは片側小脳損傷患者1症例の歩行と類似し,過去の臨床報告(Holmes, 1917)とも一致した。またGAの結果は約1500世代以降より歩行が可能となり,期待されたパラメータの獲得ができた。

【結論】

本研究で構築したモデルは小脳損傷患者の歩行と質的にある程度の一致を示した。またGAにて未知なる歩行パラメータの獲得ができ,患者個人モデルの実現可能性を示唆した。単純化された本モデルでは複雑な病態を有する患者一人一人を模擬することは難しい。しかし,今後モデルの大規模化,精緻化することにより患者個人モデルは実現できる可能性があり,本研究はその道筋を示すものである。そして,病態に応じた最適なリハビリ方法を計算機上で検討でき,患者にとって有益なものになることを期待する。