[P-SK-02-2] 中足指節関節の背屈運動を再現できる短下肢装具が痙直型片麻痺児1症例の歩行の対称性に及ぼす影響
Keywords:短下肢装具, 脳性麻痺, 非対称性
【はじめに,目的】
脳性麻痺や脳卒中後遺症者にとって,歩行の非対称性の改善は,より安定した歩行を行う上で重要である。短下肢装具(Ankle Foot Orthosis:以下AFO)は,これら対象者の立脚時間やステップ長を増加させることで,歩行の対称性を期待できる福祉用具である。今回,我々は歩行中の蹴り出しを改善する目的で,中足指節関節の背屈運動を再現できるAFOを試作した(特許出願中)。本研究の目的は,試作したAFOが歩行の非対称性の改善にどのような影響を及ぼすのか検討することである。
【方法】
対象は,7歳8か月の痙直型右片麻痺を呈する脳性麻痺男児1名である。
本研究は,まず既存のAFOが対象児の歩行の非対称性の改善に寄与するか,裸足の条件と比較した(研究1)。なお,研究1においては,計測した値の再現性を確認するため,1か月前に同様の計測を行った。次に,研究1の3か月後に,試作AFOと既存AFOの2条件で,歩行の対称性の変化を検討した(研究2)。
いずれの計測も,事前に両側の主要なランドマークにマーカーを貼付し,10メートルの歩行路を自由な速度で5回歩いてもらった。そして,歩行路中央部の動作を左右側方に2台ずつ設定した動作解析用のカメラ(30Hz)で記録した。なお,各条件は無作為に順序を設定した。
記録した映像は,3次元動作解析ソフト(Kine Analyzer:キッセイコムテック社)にて解析し,歩行速度,立脚時間,ステップ長の3項目を抽出した。そして,歩行の対称性の評価のため,立脚時間とステップ長の麻痺側の値を非麻痺側の値で除した比率を算出した。その他,歩行中に観察される麻痺側肘関節の屈曲運動(連合反応)の出現の有無を2名の理学療法士で判定した。得られた数値データに関しては,Mann-WhitneyのU検定を用いて比較した。また,計測値の再現性について級内相関係数を算出した。有意水準は5パーセント未満とした。
【結果】
研究1では,既存のAFOと裸足において,立脚時間とステップ長の対称性の比率は有意差を認めなかった。なお,これら指標の級内相関係数(1.2)は,いずれの条件でも0.40以上であった。そして,右肘関節の連合反応は,裸足では5回中5回,既存AFOでは4回観察された。
研究2では,試作AFOは既存のAFOと比較し,ステップ長の対称性の比率は有意差を示さなかった。しかし,立脚時間は有意な増加を認めた(P<0.05)。連合反応については,既存のAFOでは5回すべてで観察されたが,試作AFOでは5回中2回しか出現しなかった。
なお,いずれの研究計測においても歩行速度は比較した2条件で有意差を認めなかった。
【結論】
今回の結果より,対象児の歩行は試作したAFOにより,主に時間的パラメーターという観点で非対称性の改善が示された。このことにより,歩行中の連合反応が出現しにくくなったと推察している。
【謝辞】
本AFOの実用化に向け,科学技術振興機構平成27年度マッチングプランナー「探索試験」の助成を受け,実施した。
脳性麻痺や脳卒中後遺症者にとって,歩行の非対称性の改善は,より安定した歩行を行う上で重要である。短下肢装具(Ankle Foot Orthosis:以下AFO)は,これら対象者の立脚時間やステップ長を増加させることで,歩行の対称性を期待できる福祉用具である。今回,我々は歩行中の蹴り出しを改善する目的で,中足指節関節の背屈運動を再現できるAFOを試作した(特許出願中)。本研究の目的は,試作したAFOが歩行の非対称性の改善にどのような影響を及ぼすのか検討することである。
【方法】
対象は,7歳8か月の痙直型右片麻痺を呈する脳性麻痺男児1名である。
本研究は,まず既存のAFOが対象児の歩行の非対称性の改善に寄与するか,裸足の条件と比較した(研究1)。なお,研究1においては,計測した値の再現性を確認するため,1か月前に同様の計測を行った。次に,研究1の3か月後に,試作AFOと既存AFOの2条件で,歩行の対称性の変化を検討した(研究2)。
いずれの計測も,事前に両側の主要なランドマークにマーカーを貼付し,10メートルの歩行路を自由な速度で5回歩いてもらった。そして,歩行路中央部の動作を左右側方に2台ずつ設定した動作解析用のカメラ(30Hz)で記録した。なお,各条件は無作為に順序を設定した。
記録した映像は,3次元動作解析ソフト(Kine Analyzer:キッセイコムテック社)にて解析し,歩行速度,立脚時間,ステップ長の3項目を抽出した。そして,歩行の対称性の評価のため,立脚時間とステップ長の麻痺側の値を非麻痺側の値で除した比率を算出した。その他,歩行中に観察される麻痺側肘関節の屈曲運動(連合反応)の出現の有無を2名の理学療法士で判定した。得られた数値データに関しては,Mann-WhitneyのU検定を用いて比較した。また,計測値の再現性について級内相関係数を算出した。有意水準は5パーセント未満とした。
【結果】
研究1では,既存のAFOと裸足において,立脚時間とステップ長の対称性の比率は有意差を認めなかった。なお,これら指標の級内相関係数(1.2)は,いずれの条件でも0.40以上であった。そして,右肘関節の連合反応は,裸足では5回中5回,既存AFOでは4回観察された。
研究2では,試作AFOは既存のAFOと比較し,ステップ長の対称性の比率は有意差を示さなかった。しかし,立脚時間は有意な増加を認めた(P<0.05)。連合反応については,既存のAFOでは5回すべてで観察されたが,試作AFOでは5回中2回しか出現しなかった。
なお,いずれの研究計測においても歩行速度は比較した2条件で有意差を認めなかった。
【結論】
今回の結果より,対象児の歩行は試作したAFOにより,主に時間的パラメーターという観点で非対称性の改善が示された。このことにより,歩行中の連合反応が出現しにくくなったと推察している。
【謝辞】
本AFOの実用化に向け,科学技術振興機構平成27年度マッチングプランナー「探索試験」の助成を受け,実施した。