[P-SN-05-2] 障がい児の視覚機能について
盲学校教員との連携から眼鏡着用に至ったことより認知・身体機能面に変化がみられた1症例を通して
Keywords:障がい児, 視覚機能, 学童期
【はじめに,目的】
視覚機能は,外界の情報を取り入れる入力系,入力された情報を処理する視覚情報処理系,視覚情報を運動機能へ伝える出力系からなる。普段我々は視覚情報処理系についての意識は高いが,その基となる視力・屈折異常など入力系への意識は低い。障がいが重症であるほどその傾向にあり,入力系について十分に介入する眼科医も少ないのが現状である。また,各都道府県に設置されている盲学校には相談支援機能があり,年齢を問わず視覚機能について相談できる体制であることを知る療育関係者も少ない。
今回,盲学校教員との連携から入力系の大切さを実感した児の経過に考察を加え報告する。
【方法】
対象は頭部外傷後遺症により片麻痺を呈する8歳男児。新版K式DQ20。独歩可能。ギャロップ様走行が多く,音・光刺激や叩く・揺れる遊びを好む。物は右眼で見る傾向があり,光る物は左眼を閉眼し右眼に近づけていた。本児の物の見方について盲学校教員に相談し,視機能評価を実施した。左眼は視力が弱く閉眼にて意図的に関与を抑えていると考えられ,廃用性弱視になる可能性があるとのことで眼科受診を勧められた。受診後眼鏡での矯正が開始となり,その後の経過を追った。
【結果】
矯正8か月後,両眼で物を見ようとすることが増え,物を眼に近づけることが減った。絵本や車など見ながら操作する遊びも楽しめるようになり,動作模倣も上達した。また,移動時に走ることが殆どなく歩容も交互性となった。
【結論】
子どもの視力は生後3~6か月位に急速に発達し,その後6~8歳位まで穏やかに成長する。しかし,この時期に見えにくい状態が続くと視覚伝導路や大脳視覚野に刺激が伝わらないため見る機能が発達しないと報告されている。健常児は物が見やすい位置に移動し,自ら視覚的変化を起こすことにより入力系を発達させているが,障がい児は能動的動作の制限,斜視や眼球定位の困難さなどにより,その機会を得にくい状況がある。本児は生後1か月時に受傷しており,能動的に入力系を発達させることが難しかったと考える。8歳から矯正を始めたが,視力成長時期の最終域であったことに加え,重度知的障害を伴っているため矯正した状態が定着するまでかなりの期間を要した。しかし,入力系が向上するにつれて目と手の協応が促され,感覚遊びから因果関係のある遊びを楽しめるようになった。遊びの変化により加速・揺れでの感覚遊びであったギャロップ様走行も移動手段としては行わなくなった。また,サイン模倣が具体的になったことで人との関わりも増えた。本児にとって入力系の向上は認知面の発達を促し,歩容の改善にもつながったと言える。今回は視環境への配慮までには至らなかったが,今後は視覚専門職と連携しながら,入力系に問題を持つ障がい児の早期発見に努めると伴に,視環境の設定,視力成長時期の理学療法について模索していきたい。
視覚機能は,外界の情報を取り入れる入力系,入力された情報を処理する視覚情報処理系,視覚情報を運動機能へ伝える出力系からなる。普段我々は視覚情報処理系についての意識は高いが,その基となる視力・屈折異常など入力系への意識は低い。障がいが重症であるほどその傾向にあり,入力系について十分に介入する眼科医も少ないのが現状である。また,各都道府県に設置されている盲学校には相談支援機能があり,年齢を問わず視覚機能について相談できる体制であることを知る療育関係者も少ない。
今回,盲学校教員との連携から入力系の大切さを実感した児の経過に考察を加え報告する。
【方法】
対象は頭部外傷後遺症により片麻痺を呈する8歳男児。新版K式DQ20。独歩可能。ギャロップ様走行が多く,音・光刺激や叩く・揺れる遊びを好む。物は右眼で見る傾向があり,光る物は左眼を閉眼し右眼に近づけていた。本児の物の見方について盲学校教員に相談し,視機能評価を実施した。左眼は視力が弱く閉眼にて意図的に関与を抑えていると考えられ,廃用性弱視になる可能性があるとのことで眼科受診を勧められた。受診後眼鏡での矯正が開始となり,その後の経過を追った。
【結果】
矯正8か月後,両眼で物を見ようとすることが増え,物を眼に近づけることが減った。絵本や車など見ながら操作する遊びも楽しめるようになり,動作模倣も上達した。また,移動時に走ることが殆どなく歩容も交互性となった。
【結論】
子どもの視力は生後3~6か月位に急速に発達し,その後6~8歳位まで穏やかに成長する。しかし,この時期に見えにくい状態が続くと視覚伝導路や大脳視覚野に刺激が伝わらないため見る機能が発達しないと報告されている。健常児は物が見やすい位置に移動し,自ら視覚的変化を起こすことにより入力系を発達させているが,障がい児は能動的動作の制限,斜視や眼球定位の困難さなどにより,その機会を得にくい状況がある。本児は生後1か月時に受傷しており,能動的に入力系を発達させることが難しかったと考える。8歳から矯正を始めたが,視力成長時期の最終域であったことに加え,重度知的障害を伴っているため矯正した状態が定着するまでかなりの期間を要した。しかし,入力系が向上するにつれて目と手の協応が促され,感覚遊びから因果関係のある遊びを楽しめるようになった。遊びの変化により加速・揺れでの感覚遊びであったギャロップ様走行も移動手段としては行わなくなった。また,サイン模倣が具体的になったことで人との関わりも増えた。本児にとって入力系の向上は認知面の発達を促し,歩容の改善にもつながったと言える。今回は視環境への配慮までには至らなかったが,今後は視覚専門職と連携しながら,入力系に問題を持つ障がい児の早期発見に努めると伴に,視環境の設定,視力成長時期の理学療法について模索していきたい。