第52回日本理学療法学術大会

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日本地域理学療法学会 » ポスター発表

[P-TK-02] ポスター(地域)P02

2017年5月12日(金) 12:50 〜 13:50 ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本地域理学療法学会

[P-TK-02-4] 在宅での移乗補助具導入についての一考察
―トランスファーボードを用いていた事例を通して―

生野 正芳, 髙山 翔平 (医療法人原鶴温泉病院リハビリテーション室)

キーワード:トランスファーボード, 移乗, 在宅

【はじめに,目的】

移乗方法のひとつに座位移乗がある。先行研究によると,座位移乗は立位移乗に比べて下半身の筋力や座位バランス能力が低くても身体を横に移動する上肢の能力があれば安全に楽に行うことができると報告されている。トランスファーボードは主に座位移乗の際に用いる移乗補助具であり,利点として表面の摩擦が少なく対象者本人や介護者の移乗時の負担軽減を図れるという点が挙げられる。近年,我が国の要介護者数の増加に伴い介護者の負担も増大しており,トランスファーボードをはじめとする移乗補助具の使用が推奨されている。今回,2つの事例を通して移乗補助具導入についての考察を得たので報告する。


【方法】

(事例1)70歳代男性。妻と2人暮らし。脊椎カリエスと髄膜脳炎の既往があり,その後遺症による両下肢不全麻痺あり。加齢とともに徐々に両下肢筋力低下が進行。今回,鼠径ヘルニア増悪のため入院し手術を受けるが,その後の安静期間に両下肢筋力低下がさらに進行。加療後,自宅退院時にトランスファーボードを用いた移乗方法の指導を受けていたが,主介護者である妻は小柄で非力であることに加え,移乗方法の理解が不十分だったためにかえって介助量が増大していた。

(事例2)50歳代女性。夫と2人暮らし。視神経脊髄炎による両下肢筋力低下。入院加療後,自宅退院時にトランスファーボードを用いた移乗方法の指導を受けベッドと車いす間の移乗は近位見守りにて可能だが,それ以外の場所(トイレ・浴室など)はトランスファーボードが使用できない環境のため,夫がほぼ全介助で移乗しており夫は腰痛を発症していた。

【結果】

(事例1)短時間であれば両上肢を用いて殿部離床が可能だったため,殿部離床のタイミングに合わせて妻が後方から介助する方法を提案し介助量軽減を図った。動作方法・介助方法を練習し,現在はトランスファーボードを使用せずに妻の後方からの軽介助にて移乗を行っている。

(事例2)両上肢の筋力は比較的保たれており,さらに両膝を過伸展させること両下肢の支持性を高めることができたため,立位移乗を提案し動作獲得を図った。現在はベッドと車いす間の移乗はトランスファーボードを使用せずに立位移乗を自力で行い,それ以外の場所では自力または夫の軽介助にて立位移乗を行っている。


【結論】

移乗補助具を用いた移乗にはそれぞれ特有の手順があり,導入する際にはご本人や介護者の移乗方法に対する十分な理解が必要である。さらにご本人の能力・介護者の介護力・各家庭の環境は千差万別である。そのため在宅生活において移乗補助具を導入する場合,それらすべてを十分に考慮したうえで検討していく必要があると考える。

本報告の限界は,あくまでも事例を通しての考察に留まっている点である。今後は事例数を増やすなどしてトランスファーボードをはじめとする移乗補助具導入に関わる要素を詳しく把握することが必要であると考える。