The 52st Congress of Japanese Society of Physical Therapy

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日本地域理学療法学会 » ポスター発表

[P-TK-04] ポスター(地域)P04

Fri. May 12, 2017 12:50 PM - 1:50 PM ポスター会場 (国際展示場 展示ホール8)

日本地域理学療法学会

[P-TK-04-5] 過疎地域における生活空間の広がりと,介護予防事業の展開の検討
~地域包括ケアシステムを見据えて~

斉藤 慎吾1, 飯島 祥子2 (1.知床らうす通所リハビリセンター, 2.羅臼町地域包括支援センター)

Keywords:地域リハビリテーション, 地域連携, 生活範囲

【はじめに,目的】

本邦の介護保険制度では,来る超高齢化社会に備えて,高齢者が自立した地域生活を継続可能とするための効果的な予防重視型施策が求められている。しかし,その細部や施策の展開は各自治体に委ねられているのが現状である。北海道の知床半島にある羅臼町は過疎地域とみなされており,町内は「羅臼地区」「上地区」「下地区」に分けられる。限りある介護保険財政の中,広い羅臼町において,どのように介護予防の事業を展開していくかが町の課題となっている。近年,地域在住高齢者の身体活動を把握するため,Life-space assessment(以下LSA)を用いた報告が数多くなされている。本研究では過疎地域とみなされる羅臼町の3つの地区においてLSAの得点の分布を比較し,地域によってLSAの点数に差がないか検討した。また本研究の結果が,今後地域包括ケアシステムを考える上で,羅臼町で介護予防事業を展開していく際の方向性や留意点の検討材料となることを目的とした。


【方法】

対象は,平成28年2月時点で当通所リハビリテーションを利用している要支援・要介護者34名(男性17名,女性17名,平均年齢76.2±8.1歳)とした。全対象者に対して,基本情報として年齢,性別,要介護度,住んでいる地区,在宅生活時の介護者の有無,日中独居の有無,外出時の車いす使用の有無,外出時の階段昇降の必要性の有無を調査した。また,生活空間の評価としてLSA,日常生活動作の評価としてFIM,歩行能力の評価としてTime up and go(以下TUG)を実施した。統計学的処理として,地域間のLSA得点の差をMan-Whitney U検定,地域間でのLSA以外の他の因子の比較を,カイ二乗検定を用いて実施した。有意水準は5%未満とした。


【結果】

本研究で「下地区」に分類された対象者はいなかった。LSA得点は,「羅臼地区」で33.1±15.3点,「上地区」で24.2±9.0点であり,「羅臼地区」の方が有意に高得点であった(p<0.05)。また,TUGの値に有意差が認められ,「羅臼地区」(20.5±11.7)の方が「上地区」(35.4±18.6)よりも有意に短縮していた(p<0.05)。


【結論】

先行研究では,高齢者の外出の目的は生活必需行動,余暇活動,他社との交流に分けられると述べており,公共機関や人口の多い「羅臼地区」は他の地域よりもこれらの要因を満たしやすく,LSAの増大に繋がったと考える。また,生活範囲の狭小化は身体機能の低下を引き起こす要因であると同時に,身体機能の低下が生活空間の変化に影響するといった反対方向の因果関係も存在する可能性があるとも報告されており,生活空間の広がりが身体機能すなわちTUGの値にも影響したのではないかと考察された。今後は,地域の高齢者に対しても一般化できるような対象や内容を抽出しつつ,本研究の地域特性の結果も含めて,「羅臼地区」へのアクセシビリティの向上や周辺部の社会資源の充実などを自治体と協力し,検討していきたい。