[P-TK-21-1] 地域在住女性高齢者における体幹前傾角度と歩行時の体幹動揺量との関連性
キーワード:地域在住高齢者, 体感前傾角度, 重心動揺量
【はじめに,目的】
高齢者の加齢変化の1つに円背姿勢が挙げられる。胸椎後弯の増加や代償としての体幹前傾角増加が,歩行やバランス能力を低下させ,転倒歴とも関連することが明らかになっている。高齢者における歩行時の不安定性について,近年では加速度計を使用した分析が行われており,歩行の自己相関係数やHarmonic ratio,歩行周期変動と転倒の関連性が明らかにされている。しかし,高齢者の姿勢変化の特性である脊柱形態と歩行時の不安定性との関連性について検討した研究は少ない。本研究では,地域在住の女性高齢者における脊柱形態を定量的に捉え,歩行時の不安定性との関連性を検討したので報告する。
【方法】
対象は地域在住の健常女性高齢者60名(平均年齢64.9±3.6歳)とした。脊柱の形態測定は,脊柱計測分析器(Spinal Mouse:Index社製)を用いて行い,静止立位での胸椎後弯角,腰椎後弯角,および第7頸椎と第2仙椎を結んだ直線が鉛直線となす角度(体幹傾斜角)を算出した。歩行計測は10m歩行試験を用い,第3腰椎の高さに3軸加速度計を固定した。歩行条件は裸足,歩行スピードは快適歩行とした。歩行中の加速度データから踵接地の衝撃を元に1歩行周期を同定した。解析区間は歩き始めの5歩目から10歩行周期分とし,前後方向,左右方向,鉛直方向における動揺の実効値を算出した。なお,歩行時の実効値は歩行速度の影響を受けるため,実効値を歩行速度の2乗で除した値を動揺量と定義した。加えて,各方向の動揺量から3方向合成の動揺量を算出し平均動揺量と定義した。統計処理は,脊柱の形態(胸椎後弯角,腰椎前弯角,体幹傾斜角)と歩行時の動揺量との関連性を検討するために,Pearsonの積率相関係数を用いてそれらの相関関係を分析した。
【結果】
脊柱形態は,胸椎後彎角:35.5±10度,腰椎前彎角:24±8.9度,体幹傾斜角:4.9±3.6度であった。なお,傾斜角は+を前傾角度とした。体幹傾斜角と前後および左右方向における動揺量との間に有意な正の相関関係を認め(前後r=0.26,左右r=0.39,それぞれp<0.01,p<0.05),体幹傾斜角と平均動揺量との間に有意な正の相関関係を認めた(r=0.31,p<0.05)。
【結論】
坂光ら(2007)は,高齢者における胸椎後弯や体幹前傾角の増加がバランスおよび歩行能力を低下させると報告している。本研究でも,胸椎後弯の代償結果と考えられる脊柱前傾角と歩行時の動揺量との間に有意な正の相関関係を認めた。さらに,方向別での相関分析より,前後方向に比して左右方向の動揺量でより強い相関関係を示した。このことは,体幹前傾角度の増大は,前後方向よりも左右方向の不安定性に関連していることを示唆している。本研究の結果から,体幹前傾角度の増大を呈する高齢者の転倒予防や運動療法を考える際には,より左右方向の動揺に着目する重要性が示唆された。
高齢者の加齢変化の1つに円背姿勢が挙げられる。胸椎後弯の増加や代償としての体幹前傾角増加が,歩行やバランス能力を低下させ,転倒歴とも関連することが明らかになっている。高齢者における歩行時の不安定性について,近年では加速度計を使用した分析が行われており,歩行の自己相関係数やHarmonic ratio,歩行周期変動と転倒の関連性が明らかにされている。しかし,高齢者の姿勢変化の特性である脊柱形態と歩行時の不安定性との関連性について検討した研究は少ない。本研究では,地域在住の女性高齢者における脊柱形態を定量的に捉え,歩行時の不安定性との関連性を検討したので報告する。
【方法】
対象は地域在住の健常女性高齢者60名(平均年齢64.9±3.6歳)とした。脊柱の形態測定は,脊柱計測分析器(Spinal Mouse:Index社製)を用いて行い,静止立位での胸椎後弯角,腰椎後弯角,および第7頸椎と第2仙椎を結んだ直線が鉛直線となす角度(体幹傾斜角)を算出した。歩行計測は10m歩行試験を用い,第3腰椎の高さに3軸加速度計を固定した。歩行条件は裸足,歩行スピードは快適歩行とした。歩行中の加速度データから踵接地の衝撃を元に1歩行周期を同定した。解析区間は歩き始めの5歩目から10歩行周期分とし,前後方向,左右方向,鉛直方向における動揺の実効値を算出した。なお,歩行時の実効値は歩行速度の影響を受けるため,実効値を歩行速度の2乗で除した値を動揺量と定義した。加えて,各方向の動揺量から3方向合成の動揺量を算出し平均動揺量と定義した。統計処理は,脊柱の形態(胸椎後弯角,腰椎前弯角,体幹傾斜角)と歩行時の動揺量との関連性を検討するために,Pearsonの積率相関係数を用いてそれらの相関関係を分析した。
【結果】
脊柱形態は,胸椎後彎角:35.5±10度,腰椎前彎角:24±8.9度,体幹傾斜角:4.9±3.6度であった。なお,傾斜角は+を前傾角度とした。体幹傾斜角と前後および左右方向における動揺量との間に有意な正の相関関係を認め(前後r=0.26,左右r=0.39,それぞれp<0.01,p<0.05),体幹傾斜角と平均動揺量との間に有意な正の相関関係を認めた(r=0.31,p<0.05)。
【結論】
坂光ら(2007)は,高齢者における胸椎後弯や体幹前傾角の増加がバランスおよび歩行能力を低下させると報告している。本研究でも,胸椎後弯の代償結果と考えられる脊柱前傾角と歩行時の動揺量との間に有意な正の相関関係を認めた。さらに,方向別での相関分析より,前後方向に比して左右方向の動揺量でより強い相関関係を示した。このことは,体幹前傾角度の増大は,前後方向よりも左右方向の不安定性に関連していることを示唆している。本研究の結果から,体幹前傾角度の増大を呈する高齢者の転倒予防や運動療法を考える際には,より左右方向の動揺に着目する重要性が示唆された。