[P-YB-11-5] 精神疾患患者1症例に対する運動療法の介入効果
介入前後で気分・感情状態は変化する
キーワード:精神疾患, うつ症状, 有酸素運動
【はじめに,目的】
本邦では現在,300万人以上もの精神疾患患者が存在する。これだけの母数がいれば骨折や脳卒中などを新たに呈し,身体的なリハビリテーション(以下リハ)を必要とする患者も多く存在するのは必然である。特に精神疾患の患者では飛び降りや飛び込みなどによる多発外傷を呈し,回復期リハ病棟等での入院が長期間に及ぶケースも少なくない。しかしながら回復期リハでは精神的な面に関してほとんど目が向けられていないのが現状である。Ohmatsuら(2014)はペダリング動作による有酸素運動を行うと情動状態の改善がみられたと報告している。我々はこのような報告をもとに,精神疾患を有する1症例に対し運動療法を実施し,情動面の改善を期待した。
【方法】
症例は40歳代の女性である。視神経炎の治療のためステロイドパルス療法を行い,ステロイド精神病を発症する。その後,飛び降りから多発外傷を受傷し,急性期病院を経て受傷後34日目に回復期リハ病院に入院する。入院当初はハミルトンうつ尺度が23/52点と最重度のうつを患っていた。身体面の改善を目的にリハを実施しても「この先どうなるのだろうか」といった不安を訴える発言が非常に多かった。そのため,受傷後88日目から10日間,精神面の改善を狙った有酸素運動を実施した。効果判定をするため,有酸素運動の前後,ベッド上での筋力訓練の前後で大杉ら(2014)が報告した気分・感情状態の評価指標(POMS)を測定し,比較した。介入時間は15分にし,負荷量は症例の快適負荷とし,各運動前後での血圧,脈拍の測定をした。有酸素運動の機器は自転車エルゴメーター(OG Welness社製)を使用した。測定はベッド上,自転車エルゴメーターでそれぞれ10回,計20回行った。統計処理はwilcoxonの符号付き順位和検定を行い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
自転車エルゴメーターを用いた有酸素運動前後ではPOMSの活気の項目が優位(p<0.01)に改善がみられた。ベッド上の筋力訓練の前後では優位差のある変化はみられなかった。他の項目に関しては有意差のある変化はみられなかった。
【結論】
この結果はうつ患者に対して運動療法は効果があるといった過去の報告(Viola, 2014)を支持するものとなった。本症例は身体的なリハビリ目的で理学療法を受けていたが,受傷起点は精神的なものが大きく関わっている。すなわち,リハビリとしては身体面,精神面,両方の介入が必要であり,どちらも同等に考えなければいけない。昨今の社会的な背景を踏まえると,このような患者に対し,適切なリハビリを提供していくことは極めて重要である。今後,至適負荷量を検討していきながら症例数を増やしていき,どのようなプロセスで改善がみられるのかを確かめていきたい。
本邦では現在,300万人以上もの精神疾患患者が存在する。これだけの母数がいれば骨折や脳卒中などを新たに呈し,身体的なリハビリテーション(以下リハ)を必要とする患者も多く存在するのは必然である。特に精神疾患の患者では飛び降りや飛び込みなどによる多発外傷を呈し,回復期リハ病棟等での入院が長期間に及ぶケースも少なくない。しかしながら回復期リハでは精神的な面に関してほとんど目が向けられていないのが現状である。Ohmatsuら(2014)はペダリング動作による有酸素運動を行うと情動状態の改善がみられたと報告している。我々はこのような報告をもとに,精神疾患を有する1症例に対し運動療法を実施し,情動面の改善を期待した。
【方法】
症例は40歳代の女性である。視神経炎の治療のためステロイドパルス療法を行い,ステロイド精神病を発症する。その後,飛び降りから多発外傷を受傷し,急性期病院を経て受傷後34日目に回復期リハ病院に入院する。入院当初はハミルトンうつ尺度が23/52点と最重度のうつを患っていた。身体面の改善を目的にリハを実施しても「この先どうなるのだろうか」といった不安を訴える発言が非常に多かった。そのため,受傷後88日目から10日間,精神面の改善を狙った有酸素運動を実施した。効果判定をするため,有酸素運動の前後,ベッド上での筋力訓練の前後で大杉ら(2014)が報告した気分・感情状態の評価指標(POMS)を測定し,比較した。介入時間は15分にし,負荷量は症例の快適負荷とし,各運動前後での血圧,脈拍の測定をした。有酸素運動の機器は自転車エルゴメーター(OG Welness社製)を使用した。測定はベッド上,自転車エルゴメーターでそれぞれ10回,計20回行った。統計処理はwilcoxonの符号付き順位和検定を行い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
自転車エルゴメーターを用いた有酸素運動前後ではPOMSの活気の項目が優位(p<0.01)に改善がみられた。ベッド上の筋力訓練の前後では優位差のある変化はみられなかった。他の項目に関しては有意差のある変化はみられなかった。
【結論】
この結果はうつ患者に対して運動療法は効果があるといった過去の報告(Viola, 2014)を支持するものとなった。本症例は身体的なリハビリ目的で理学療法を受けていたが,受傷起点は精神的なものが大きく関わっている。すなわち,リハビリとしては身体面,精神面,両方の介入が必要であり,どちらも同等に考えなければいけない。昨今の社会的な背景を踏まえると,このような患者に対し,適切なリハビリを提供していくことは極めて重要である。今後,至適負荷量を検討していきながら症例数を増やしていき,どのようなプロセスで改善がみられるのかを確かめていきたい。