[P-YB-18-1] 転倒予防のための足趾伸展・足関節背屈補助靴下の開発
―健常若年者を対象とした基礎的研究―
キーワード:転倒予防, 靴下, 動作分析
【はじめに,目的】
厚生労働省の人口動態統計(2011年)から,転倒・転落による死亡者数は年間7,000名を超え,今や交通事故による死亡者数を上回りさらに上昇する傾向にある。歩行中の転倒原因のひとつは歩行遊脚期での足指伸展や足関節背屈不足による躓きとされている。本研究では,歩行時の躓きによる転倒を防止するための足趾伸展・足関節背屈補助靴下(以下,補助靴下)を開発し,その効果を運動学的,筋電図学的に検証することを目的とした。
【方法】
補助靴下の開発においては,特殊な編成技術により高い伸縮性を持たせた編地を下腿前面と足部背面に使用し,編地の伸縮力により足趾伸展・足関節背屈運動を補助できるよう工夫した。健常若年者11名(平均年齢21.8±0.4歳,身長166.1±10.1cm,体重58.2±9.1kg男性6名)を対象として,通常の紳士・婦人用靴下(以下,通常靴下)と開発した補助靴下装着歩行時の歩行動作分析と筋活動分析を行った。動作分析には三次元動作解析装置(VICON NEXUS,カメラ8台,VICON社製)を用い,Oxford foot modelに準じて,被験者の骨盤と両側の大腿,下腿および足部に合計31個の赤外線反射マーカーを貼付した。右下肢を分析対象とし,右母趾基節骨側面に貼付したマーカー(以下,母趾マーカー)の遊脚中期における最下点を同定し,その時点における股関節屈曲角度,膝関節屈曲角度,足関節背屈角度および母趾伸展角度を求めた。筋活動分析の対象筋は右前脛骨筋とし,三次元動作解析装置と同期させた表面筋電計(DELSYS Trigno,DELSYS社製)を用いて筋活動を計測した。得られた筋電図生波形を全波整流し50msのRoot mean squareを求めた後,前脛骨筋のMMT3の肢位における筋活動を100%として正規化し,遊脚期の平均値を算出した。歩行課題は各3回測定し,分析には3回の平均値を使用した。統計分析では,運動学的パラメータと前脛骨筋筋活動について対応のあるt検定を用いて通常靴下と補助靴下とを比較した。検定の有意水準は5%とした。
【結果】
歩行速度,歩行率および歩幅には両靴下条件における差はみられなかった。遊脚期における母趾マーカーの最下点は,通常靴下に比べて補助靴下のほうが有意に高位であった(通常靴下27.0±7.5mm,補助靴下32.2±4.7mm)。さらに,同時点での足関節背屈角度および母趾伸展角度においても補助靴下のほうが有意に高い値を示した。股関節・膝関節角度および前脛骨筋筋活動には有意な差はなかった。
【結論】
本研究で開発した補助靴下は,通常の靴下に比べて有意に足趾伸展と足関節背屈を促し,歩行遊脚期における母趾の最下点を5mm程度挙上させる機能を持つことが明らかとなった。前脛骨筋の活動には両靴下条件間で差が無かったことから,この挙上作用は純粋に補助靴下の効果と考えられる。今後,高齢者を対象とした効果検証を行うとともに,履き易さや履き心地についても検討していく必要がある。
厚生労働省の人口動態統計(2011年)から,転倒・転落による死亡者数は年間7,000名を超え,今や交通事故による死亡者数を上回りさらに上昇する傾向にある。歩行中の転倒原因のひとつは歩行遊脚期での足指伸展や足関節背屈不足による躓きとされている。本研究では,歩行時の躓きによる転倒を防止するための足趾伸展・足関節背屈補助靴下(以下,補助靴下)を開発し,その効果を運動学的,筋電図学的に検証することを目的とした。
【方法】
補助靴下の開発においては,特殊な編成技術により高い伸縮性を持たせた編地を下腿前面と足部背面に使用し,編地の伸縮力により足趾伸展・足関節背屈運動を補助できるよう工夫した。健常若年者11名(平均年齢21.8±0.4歳,身長166.1±10.1cm,体重58.2±9.1kg男性6名)を対象として,通常の紳士・婦人用靴下(以下,通常靴下)と開発した補助靴下装着歩行時の歩行動作分析と筋活動分析を行った。動作分析には三次元動作解析装置(VICON NEXUS,カメラ8台,VICON社製)を用い,Oxford foot modelに準じて,被験者の骨盤と両側の大腿,下腿および足部に合計31個の赤外線反射マーカーを貼付した。右下肢を分析対象とし,右母趾基節骨側面に貼付したマーカー(以下,母趾マーカー)の遊脚中期における最下点を同定し,その時点における股関節屈曲角度,膝関節屈曲角度,足関節背屈角度および母趾伸展角度を求めた。筋活動分析の対象筋は右前脛骨筋とし,三次元動作解析装置と同期させた表面筋電計(DELSYS Trigno,DELSYS社製)を用いて筋活動を計測した。得られた筋電図生波形を全波整流し50msのRoot mean squareを求めた後,前脛骨筋のMMT3の肢位における筋活動を100%として正規化し,遊脚期の平均値を算出した。歩行課題は各3回測定し,分析には3回の平均値を使用した。統計分析では,運動学的パラメータと前脛骨筋筋活動について対応のあるt検定を用いて通常靴下と補助靴下とを比較した。検定の有意水準は5%とした。
【結果】
歩行速度,歩行率および歩幅には両靴下条件における差はみられなかった。遊脚期における母趾マーカーの最下点は,通常靴下に比べて補助靴下のほうが有意に高位であった(通常靴下27.0±7.5mm,補助靴下32.2±4.7mm)。さらに,同時点での足関節背屈角度および母趾伸展角度においても補助靴下のほうが有意に高い値を示した。股関節・膝関節角度および前脛骨筋筋活動には有意な差はなかった。
【結論】
本研究で開発した補助靴下は,通常の靴下に比べて有意に足趾伸展と足関節背屈を促し,歩行遊脚期における母趾の最下点を5mm程度挙上させる機能を持つことが明らかとなった。前脛骨筋の活動には両靴下条件間で差が無かったことから,この挙上作用は純粋に補助靴下の効果と考えられる。今後,高齢者を対象とした効果検証を行うとともに,履き易さや履き心地についても検討していく必要がある。