[P-YB-20-2] 地域高齢者の認知機能低下に影響する要因の検討
2年間の縦断調査から
キーワード:認知症, 抑うつ, 縦断調査
【はじめに,目的】
高齢社会が進行し続けているわが国において,介護予防は重要課題である。要介護状態に至る原因の上位に認知症があり,認知症患者数は今後,ますます増加することが予測されている。多くの認知症は根治困難であり,発症予防が重要である。近年では,認知症の発症予防に対し,身体機能の維持・向上の有効性が示され,理学療法士が認知症予防に関与する機会が増えている。しかし,認知症に関わる要因は多岐にわたることから,多面的な評価が必要になると思われる。そこで本研究では,2年間の縦断調査から,地域高齢者の認知機能低下に影響する要因を,身体機能と抑うつ状態に着目して明らかにすることとした。
【方法】
対象はA市で毎年開催している健康支援事業に,2014年および2016年の両方に参加し,2014年時点で認知機能評価(Mini-Mental State Examination:MMSE)が28点以上で,認知機能障害がないと判断された78名とした。調査・測定項目は年齢,身長,体重の基本情報の他に,筋力の指標として握力,等尺性膝伸展筋力,複合的な動作能力の指標としてTimed up & Go test,柔軟性の指標として長座位体前屈を測定した。また,抑うつ傾向の評価として5段階Geriatric Depression Scale(GDS-5)を行い,GDS-5で2点以上を抑うつ傾向ありと判断した。認知機能の評価には,全般的な認知機能評価であるMMSEを用いた。
2014年から2016年にかけて,MMSEで3点以上低下した対象を低下群(14名,平均年齢72.6歳,標準偏差5.2),MMSEの変化が3点未満であった対象を維持群(64名,平均年齢72.2歳,標準偏差5.2)とした。各群の2014年時点の測定値を,対応のないt検定およびカイ二乗検定で比較した。さらに,認知機能が低下したか否かを従属変数,2014年時点の各測定値を説明変数とする多重ロジスティック回帰分析(強制投入法)にてオッズ比を求めた。統計解析はSPSS 23を用い,有意水準を5%とした。
【結果】
低下群,維持群の2群間で各測定値を比較した結果,抑うつ傾向の有無で有意差を認め,低下群では2014年時点に抑うつ傾向を有している者の割合が有意に高かった(P<0.05,低下群44%,維持群17%)。ロジスティック回帰分析の結果,認知機能低下の有無に関わる要因として有意であったのは抑うつ傾向の有無のみであり,オッズ比は8.89だった(95%信頼区間;1.55-51.10,P=0.014)。
【結論】
認知機能の低下群と維持群で,調査開始時の各身体機能を比較した結果,各項目に有意差を認めなかった。一方,抑うつ傾向にある高齢者は2年後に認知機能が低下しやすいことが明らかとなった。これは,年齢やその他の身体機能で調整した分析においても有意であり,抑うつ傾向にあることは,その後,早期に認知機能が低下しやすい可能性が示唆される。認知症予防の介入のためには,身体機能の評価のみならず,抑うつを始めとする精神機能評価も併せて行う必要性があると考えられる。
高齢社会が進行し続けているわが国において,介護予防は重要課題である。要介護状態に至る原因の上位に認知症があり,認知症患者数は今後,ますます増加することが予測されている。多くの認知症は根治困難であり,発症予防が重要である。近年では,認知症の発症予防に対し,身体機能の維持・向上の有効性が示され,理学療法士が認知症予防に関与する機会が増えている。しかし,認知症に関わる要因は多岐にわたることから,多面的な評価が必要になると思われる。そこで本研究では,2年間の縦断調査から,地域高齢者の認知機能低下に影響する要因を,身体機能と抑うつ状態に着目して明らかにすることとした。
【方法】
対象はA市で毎年開催している健康支援事業に,2014年および2016年の両方に参加し,2014年時点で認知機能評価(Mini-Mental State Examination:MMSE)が28点以上で,認知機能障害がないと判断された78名とした。調査・測定項目は年齢,身長,体重の基本情報の他に,筋力の指標として握力,等尺性膝伸展筋力,複合的な動作能力の指標としてTimed up & Go test,柔軟性の指標として長座位体前屈を測定した。また,抑うつ傾向の評価として5段階Geriatric Depression Scale(GDS-5)を行い,GDS-5で2点以上を抑うつ傾向ありと判断した。認知機能の評価には,全般的な認知機能評価であるMMSEを用いた。
2014年から2016年にかけて,MMSEで3点以上低下した対象を低下群(14名,平均年齢72.6歳,標準偏差5.2),MMSEの変化が3点未満であった対象を維持群(64名,平均年齢72.2歳,標準偏差5.2)とした。各群の2014年時点の測定値を,対応のないt検定およびカイ二乗検定で比較した。さらに,認知機能が低下したか否かを従属変数,2014年時点の各測定値を説明変数とする多重ロジスティック回帰分析(強制投入法)にてオッズ比を求めた。統計解析はSPSS 23を用い,有意水準を5%とした。
【結果】
低下群,維持群の2群間で各測定値を比較した結果,抑うつ傾向の有無で有意差を認め,低下群では2014年時点に抑うつ傾向を有している者の割合が有意に高かった(P<0.05,低下群44%,維持群17%)。ロジスティック回帰分析の結果,認知機能低下の有無に関わる要因として有意であったのは抑うつ傾向の有無のみであり,オッズ比は8.89だった(95%信頼区間;1.55-51.10,P=0.014)。
【結論】
認知機能の低下群と維持群で,調査開始時の各身体機能を比較した結果,各項目に有意差を認めなかった。一方,抑うつ傾向にある高齢者は2年後に認知機能が低下しやすいことが明らかとなった。これは,年齢やその他の身体機能で調整した分析においても有意であり,抑うつ傾向にあることは,その後,早期に認知機能が低下しやすい可能性が示唆される。認知症予防の介入のためには,身体機能の評価のみならず,抑うつを始めとする精神機能評価も併せて行う必要性があると考えられる。