[P-YB-24-2] 生体力学的要因に関する業務内容の違いと恐怖回避思考が看護師の腰痛症に与える影響
キーワード:腰痛, 恐怖回避思考, 産業衛生
【はじめに,目的】
看護師は腰痛多発業種の1つとされ,腰痛の要因は直接腰部に負担をかける生体力学的要因と,ストレスなどの心理社会的要因が報告されている。看護業務における生体力学的要因は移乗介助や体位変換が報告されており,心理社会的要因は恐怖回避思考が危険因子として報告されている。本研究の目的は生体力学的要因に関する業務内容の違いと恐怖回避思考が看護師の腰痛に与える影響を検討することで看護師の腰痛症対策において重点を置くべき要因を示唆し今後の治療戦略の一助とすることである。
【方法】
対象は病院に勤務する看護師294名(急性期:187名,回復期・外来:107名)である。方法は2病院に勤務する看護師に対して,自記式の質問紙調査を実施した。測定項目は年齢,性別,経験年数,勤務する病棟,腰痛の程度,生体力学的要因,恐怖回避思考である。生体力学的要因は日勤帯勤務時の1日で移乗介助を行う平均的な回数(以下,移乗回数)と体位変換を行う平均的な回数(以下,体位変換回数)を聴取した。腰痛の程度はNumerical Rating Scale(以下,NRS),恐怖回避思考は日本語版Fear-Avoidance Beliefs Questionnaire(以下,日本語版FABQ)を用いて評価した。統計学的解析はNRSを従属変数に重回帰分析を実施した。また急性期型に勤務する者(以下,急性期)と回復期病棟・外来に勤務する者(以下,回復期・外来)に群分けし,各項目においてMann-Whitney's U-testを実施した。有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】
主な測定項目の中央値(四分位範囲)を以下に記載する,年齢は急性期:33(29-39)歳,回復期・外来:51(43-55)歳,移乗回数は急性期:4(3-6)回,回復期・外来:2(0-4)回,体位変換回数は急性期:10(3-14.5)回,回復期・外来:0(0-2)回,NRSは急性期:3(1-5),回復期・外来:3(1-5),日本語版FABQは急性期:46(37-54)点,回復期・外来:46(32-53)点である。NRSを従属変数,年齢,経験年数,移乗回数,体位変換回数,日本語版FABQを独立変数とした重回帰分析は,日本語版FABQ(β=0.416)と体位変換回数(β=0.193)が有意な独立因子として抽出された(R2=0.245)。Mann-Whitney's U-testでは,年齢,経験年数は回復期・外来が有意に多く,移乗回数と体位変換回数は急性期が有意に多かったが,日本語版FABQおよび腰痛の程度には有意差が認められなかった。
【結論】
重回帰分析の結果より,看護師の腰痛症の程度には恐怖回避思考と体位変換回数が関連していること,年齢や経験年数は腰痛症の程度とは関連がないことが明らかになった。Mann-Whitney's U-testからは移乗回数や体位変換回数などの業務内容の違いは腰痛症との関連は少ないことが示唆された。以上より,看護師の腰痛症には恐怖回避思考が生体力学的要因よりも強く影響していることが示唆されたことから,今後の看護師の腰痛症対策においては恐怖回避思考の軽減に着目した予防・治療戦略を展開していくことが重要であると思われる。
看護師は腰痛多発業種の1つとされ,腰痛の要因は直接腰部に負担をかける生体力学的要因と,ストレスなどの心理社会的要因が報告されている。看護業務における生体力学的要因は移乗介助や体位変換が報告されており,心理社会的要因は恐怖回避思考が危険因子として報告されている。本研究の目的は生体力学的要因に関する業務内容の違いと恐怖回避思考が看護師の腰痛に与える影響を検討することで看護師の腰痛症対策において重点を置くべき要因を示唆し今後の治療戦略の一助とすることである。
【方法】
対象は病院に勤務する看護師294名(急性期:187名,回復期・外来:107名)である。方法は2病院に勤務する看護師に対して,自記式の質問紙調査を実施した。測定項目は年齢,性別,経験年数,勤務する病棟,腰痛の程度,生体力学的要因,恐怖回避思考である。生体力学的要因は日勤帯勤務時の1日で移乗介助を行う平均的な回数(以下,移乗回数)と体位変換を行う平均的な回数(以下,体位変換回数)を聴取した。腰痛の程度はNumerical Rating Scale(以下,NRS),恐怖回避思考は日本語版Fear-Avoidance Beliefs Questionnaire(以下,日本語版FABQ)を用いて評価した。統計学的解析はNRSを従属変数に重回帰分析を実施した。また急性期型に勤務する者(以下,急性期)と回復期病棟・外来に勤務する者(以下,回復期・外来)に群分けし,各項目においてMann-Whitney's U-testを実施した。有意水準は危険率5%未満とした。
【結果】
主な測定項目の中央値(四分位範囲)を以下に記載する,年齢は急性期:33(29-39)歳,回復期・外来:51(43-55)歳,移乗回数は急性期:4(3-6)回,回復期・外来:2(0-4)回,体位変換回数は急性期:10(3-14.5)回,回復期・外来:0(0-2)回,NRSは急性期:3(1-5),回復期・外来:3(1-5),日本語版FABQは急性期:46(37-54)点,回復期・外来:46(32-53)点である。NRSを従属変数,年齢,経験年数,移乗回数,体位変換回数,日本語版FABQを独立変数とした重回帰分析は,日本語版FABQ(β=0.416)と体位変換回数(β=0.193)が有意な独立因子として抽出された(R2=0.245)。Mann-Whitney's U-testでは,年齢,経験年数は回復期・外来が有意に多く,移乗回数と体位変換回数は急性期が有意に多かったが,日本語版FABQおよび腰痛の程度には有意差が認められなかった。
【結論】
重回帰分析の結果より,看護師の腰痛症の程度には恐怖回避思考と体位変換回数が関連していること,年齢や経験年数は腰痛症の程度とは関連がないことが明らかになった。Mann-Whitney's U-testからは移乗回数や体位変換回数などの業務内容の違いは腰痛症との関連は少ないことが示唆された。以上より,看護師の腰痛症には恐怖回避思考が生体力学的要因よりも強く影響していることが示唆されたことから,今後の看護師の腰痛症対策においては恐怖回避思考の軽減に着目した予防・治療戦略を展開していくことが重要であると思われる。