第52回日本理学療法学術大会

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日本スポーツ理学療法学会企画 » パネルディスカッション

[SP-2] パネルディスカッション 野球肘検診再考

2017年5月12日(金) 16:50 〜 17:50 A2会場 (幕張メッセ国際会議場 国際会議室)

座長:渡邊 裕之(北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科)

日本スポーツ理学療法学会企画

[SP-2-2] データから障害を予防する―理学療法士による学童野球での試み―

亀山 顕太郎1, 仲島 佑紀2, 木島 丈博3, 石井 壮郎4, 落合 信靖5 (1.松戸整形外科病院リハビリテーションセンター, 2.船橋整形外科市川クリニック, 3.富士整形外科病院整形外科, 4.松戸整形外科病院MD, 5.千葉大学医学部附属病院整形外科)

千葉県では,2012年から上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(以下OCD)の早期発見を目的に学童野球を対象とした野球肘検診を実施しているが,競技人口が多いため県内全選手には行えていないのが現状である。野球肘検診は対象となる全選手に行い,症状が出ない初期のうちに発見し重症化を防ぐことがあるべき姿なのは言うまでもないが,検診を受けていない子どもがOCDに罹患していることに気付かず練習を続け,重症化する症例が後を絶たない。
そこで検診の手が届かない選手に対しても,選手の身体特徴から保護者や指導者がOCDを発見するシステムを構築できないかと研究を進めてきた。
分析対象は,検診に参加した選手のうち9歳~12歳の1587名とした。検診ではエコー検査に加え,問診・理学検査の158項目の所見を評価した。エコーによる病期分類は石崎らのS・I・II・IIIの4段階を用い,I以上と診断された選手をOCD群と定義した。OCD群と関連性のある因子を,χ2検定(p<0.05)を用いて抽出し,それらの因子の保有数ごとにOCDの相対リスクを算出した。OCD群は1587名中33名(2.1%)であった。OCD群と有意に関連性のあった因子は「肘の伸展制限」,「肘の屈曲制限」,「投手」,「1週間に20時間以上の練習時間」,「身長140cm以上」,「体重35kg以上」の6項目であった。これらの項目のうち6項目全て当てはまっている場合はOCDの有病率が23.8倍,5項目以上の場合は5.1倍,4項目の場合は2.5倍高くなった。
また,OCDだけでなく,その他投球時の肩肘痛,腰部や下肢障害の発症予防を目的にした前向き研究も行っている。ここで得られたデータの中で,特に障害の発症と関連があった項目は,翌年の検診に反映されるのと同時に,指導者講習会や手帳を通して現場と情報を共有するようにしている。
今までの野球肘検診は,障害の早期発見に重きを置かれることが多いが,千葉県では,得られたデータをもとに障害の予測や予防にも力を入れている。