第6回日本地域理学療法学会学術大会

講演情報

事例・症例セッション

事例・症例セッション

[CA] 事例・症例セッション

2019年12月15日(日) 12:50 〜 13:50 第1会場 (テルサホール)

訪問・通所リハにおける効果的な介入
司会:田後裕之

12:50 〜 13:05

[CA-01] 訪問リハビリテーションによる自己効力感の上昇が生活空間を拡大させた一症例

*高松 賢司1、平松 佑一2、藤田 暢一1、竹中 幸治1 (1. 社会医療法人大道会 森之宮病院 リハビリテーション部 理学療法科、2. 社会医療法人大道会 森之宮病院 神経リハビリテーション研究部)

キーワード:生活空間、訪問リハビリテーション、自己効力感

【背景と目的】
訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)による生活空間の拡大には、移動やADLについての自己効力感が影響することが報告されている(塩沢ら、2014)。今回、歩行や家事における自己効力感の変化が生活空間を拡大させるか否かについて検証することを目的とした。

【症例紹介】
症例は右中大脳脚梗塞により左片麻痺を呈した60歳代の女性。専業主婦。要介護Ⅱ。発症後6ヵ月で回復期リハビリテーション病棟を退院され、デイサービスを利用予定であったが「家事も出来ないのに行きたくない」と訪問リハ開始となった。介護者への依存が強いとの情報を得ていた。開始時より歩行器歩行は自立だが、トイレ以外はベッド周囲の生活空間であった。Fugl-Meyer Assessment(FMA)は上肢37/66、下肢23/34点、MMSEは30/30であった。できるADL(歩行や家事)に関する困難感の訴えが多かったため、自己効力感尺度(山崎ら、2010)に基づいて評価すると「全く自信がない:1」であった。歩行や家事における自己効力感の低下が介護者への依存を強め、生活空間を狭小化させていると仮説づけた。週2回(PT・OT:各40分)の頻度でBADL(歩行、階段、整容、清拭、更衣)やIADL(料理、洗濯、掃除)練習、自主練習指導、家族とのADL練習、社会参加の促しを進めた。

【結果】
各評価期間(開始時/中間評価:4ヵ月目/終了時:8ヶ月目)の変化は、Life-Space Assessment(4/24/36点)、障害高齢者の日常生活自立度(A-2/A-1/A-1)と寝室内から別室、敷地外へと生活範囲が拡大した。FIM-M(69/72/79)は整容(5/5/6)、清拭(4/5/5)、更衣上半身(5/5/7)更衣下半身(4/4/5)、浴槽移乗(4/5/6)、階段(3/4/6)、IADL尺度(2/4/6)は食事の準備、家事、洗濯、移送形式で改善した。自己効力感は歩行(1/2/4)、階段(1/2/4)、家事全般(1/3/4)、外出(1/2/4)と上昇した。Zarit介護負担尺度(28/21/13)では介護依存の軽減を認めた。FMA(60/60/60点)、10MWT(31.0/29.5/28.3秒)、6MWT(100/110/110m)の改善は僅かであった。

【考察】
4ヵ月後に寝室外に生活空間が拡大した理由は、訪問リハによるBADLやIADLの改善、家族とのADL練習における成功体験が自己効力感を高めて、できるからしているADLに改善した結果と考える。8ヵ月後に生活空間が敷地外へ拡大した理由は、玄関の段差昇降や屋外歩行が可能となったことで介助者への依存や気遣いが減少し、外出に対する自己効力感の変化が行動を変容させたと考える。発症後1年以内の脳卒中患者のADL改善(Cochrane Database, 2013)や生活空間の拡大(上岡ら、2013)に訪問リハは効果的である。本症例の経過は、生活機能の改善に加えて歩行や家事における自己効力感の上昇が生活空間を拡大させることを示唆していた。

【倫理的配慮、説明と同意】
本報告はヘルシンキ宣言に沿い、当院倫理委員会での承認(承認番号:367)のもと、症例と家族に報告内容の説明と同意を書面にて得たのちに実施した。