第6回日本地域理学療法学会学術大会

講演情報

大会長賞ノミネート演題発表

大会長賞ノミネート発表

[N] 大会長賞ノミネート演題発表

2019年12月14日(土) 16:30 〜 17:30 第2会場 (東館2階 セミナー室)

座長:樋口 由美(大阪府立大学大学院 総合リハビリテーション学研究科)、田中 康之(千葉県千葉リハビリテーションセンター 地域連携部 地域支援室)

16:30 〜 16:40

[N-01] 地域在住高齢者の生活機能低下を予測するための歩行速度の判定方法
Zスコアを用いた判定方法の妥当性の検証

*上出 直人1,2、佐藤 春彦1,2、柴 喜崇1、坂本 美喜1 (1. 北里大学医療衛生学部、2. 北里大学大学院医療系研究科)

キーワード:歩行速度、生活機能、予測

【はじめに・目的】
地域在住高齢者の生活機能低下に関しては歩行速度が有用な予測指標になりうる.しかし,その予測感度は必ずしも高いとは言えない.本研究は,高齢者の生活機能低下を予測するための感度の高い歩行速度の判定方法について検討した.
【方法】
本研究は1年間の縦断的観察研究であった.対象は,地域の広報誌で募集した地域在住高齢者305名とした.65歳未満,要介護認定を受けている高齢者は除外した.対象者には,下肢機能,筋量,精神心理機能,転倒頻度,疼痛,併存疾患,服薬についてベースラインで調査した.下肢機能の評価は,Five times chair stand test,Timed Up and Go test (TUGT),快適条件および最速条件での歩行速度,膝伸展筋力を測定した.筋量は生体インピーダンス法にて四肢筋量を計測し,Asia Working Group for Sarcopenia (Chen, et al. 2014)の基準にて筋量低下の有無を判定した.精神心理機能は,5項目版Geriatric Depression Scaleにて抑うつの有無,Trail Making Test part A (TMT)にて認知機能を評価した.また,生活機能の評価には,老研式活動能力指標の下位項目にて手段的日常生活活動能力(IADL)を調査し,IADL得点が満点の場合を自立,それ以外を非自立と操作的に定義した.IADLは1年後に再度調査を行い,1年間でIADLの自立を維持または自立に改善した群(機能良好群),IADLが自立から非自立に低下または非自立のまま不変であった群(機能低下群)に群分けした.さらに,本研究では歩行速度の測定結果を,先行研究(Kamide, et al. 2017)の手法に準じて性別と年齢の平均値で標準化しZスコアに変換した.各評価項目における機能良好群と機能低下群の群間差を統計学的に比較し,さらに受信者動作特性曲線(ROC曲線)にて両群の識別能力を検証した.
【結果】
機能良好群と機能低下群の間で統計学的に有意差が認められた項目は,最速歩行速度のZスコア,TUG,TMT,性別,糖尿病の罹患であった.なお,最速歩行速度の実測値は有意差を認めなかった.次に,ROC曲線で両群の識別能力を検証した結果,最速歩行速度のZスコアのみが有意に両群を識別可能であり,曲線下面積は0.77,感度90.5%,特異度70.0%,カットオフ値は0.4であった.
【結論】
本研究の結果,最速歩行速度を,同年代・同性別の平均値と比較した値に補正して評価をすることで,地域高齢者の生活機能低下を高い感度で予測可能であることが示された.また,IADLの自立と関連する最速歩行速度は,カットオフ値のZスコアから同年代・同性別の平均値よりも約15%高いことが必要であることが示唆された.

【倫理的配慮、説明と同意】
本研究は,北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を得て実施したものである(承認番号2016-G021B).また,本研究の対象者には書面および口頭にて研究目的および内容について説明し,研究協力については書面による同意を得た.